藤井誠インタビュー2019

現在個展開催中の藤井誠(フジイマコト)先生にお話を伺いました!

 藤井誠2017


-GallerySeekでは約4年ぶりの個展となりますね。 
制作されてきた中で心境の変化はありましたか?

この1年は非常勤講師の仕事と並行しての制作だったため、思うように時間が取れずもどかしい気持ちもありました。
その中でどのように新しいことに挑戦していくかが課題となりました。
作品も、自分の中では少しずつ変わってきているものもあるかと思いますが、以前のものも悪いと思っているわけではありません。
急にがらりと変わるのではなく少しずつ行ったり来たりしながら変化していくタイプの作家なのだと思います。



-例えば、どんなところが変化していると感じますか?

新しいモチーフを取り入れる、色使いを変える、下地の色を変えるなど、見ている人にはわかりにくいかもしれませんが、少しずつ新しいことをしています。
今回の個展も、これまでは止まった水を描くことが多かったのですが、今回は流れ動く水に挑戦しました。
それに加えて湿度というか、湿った空気感を出すことができればと思い制作しています。
藤井誠10M水音が咲く
「水音が咲く」M10

個展のサブタイトル、「水音が咲く」は音が聞こえてきそうな展示になればいいなとの想いでつけました。
サブタイトルになっているこちらの作品もしぶきを強調したかったので、背景はあえて暗く、水面も描き込みを抑えています。
しぶきのポツポツは水彩絵の具で、筆をはじいて表現しています。
油に水彩は水分をはじくので、小さな丸が描けるんですね。



-どうして「流れ動く水」に挑戦しようと思ったのでしょうか?

感動する風景との出会いを通して、ここを描いてみたいと思いました。
新しい要素を取り入れるといろいろな発見があります。
水のモチーフはやはり昔からずっと描いてきていますが飽きないですね。
コンセプトにもしている日本人にしか描けない洋画・・・。 
“余白の美”を洋画でどう表現するかを考えたとき、水に反射する雲や空や枝などが、
「実際には見えていないが反射で見える世界」として余白を表現できると思いました。 
藤井誠15F空を揺らす(額無)
「空を揺らす」F15 

リアルだけど写実的な作品にはしたくなくて“緩やかに優しく”をテーマとしています。 
手数を少なく見せ、動きを感じられる作品を心がけています。 
水の反射や、あえてアングルを近くして描くなど、描かれていない部分を想像することで美しい世界を感じてもらえれば嬉しいです。 



-取材地でのエピソードなどありましたら聞かせてください。

海の作品の取材をしている下田には毎年家族で行っています。
日本屈指の水質の良い海岸で、天気や風の違いで海の色まで変わってくるので見ているだけで楽しめます。
今年は強風で波が高く6歳の娘がもみくちゃにされながらも果敢に海に挑む姿に成長を感じました。
藤井誠8P紫の朝
「紫の朝」P8 


-今回の出品作の中で一番見てほしい作品を教えてください。 

藤井誠M30清く流れる(額無)
「清く流れる」M30 


-「清く流れる」の取材場所はどちらですか?

岩手県遠野市にある重湍渓(ちょうたんけい)というところです。
巨大な花崗岩が階段状に侵食されていて、まるで畳を敷いたようになっています。 
私が行ったのは緑の時期ですが、紅葉の名所としても知られているようです。 
これまで大きな画面で流れる水を描いたことがなかったので、水の動きを表現するのに苦労しましたね。
静謐な雰囲気の中にも動きのある表現ができたのではないかと思っています。



-取材はどのくらいの頻度で行かれてますか?

家族旅行もかねて年34回は遠出しています。
取材地は遠出するときは調べていきますが、近場だとふらっとカメラやスケッチブック片手に。
最近はSNSなどで検索することも多いです。

 

-影響を受けた作家・作品を教えてください。

モネ、小磯良平、吉岡正人
モネの絵にはモチーフや構図、視点を、小磯の絵には冷静であたたかな眼差しと的確な技術を、恩師、吉岡正人先生には絵とはこうあるべきという信念を学びました。



-吉岡正人先生は母校、埼玉大学の教授でしたよね。

はい。
先生の言葉で印象に残っているのは「自分が死んで数百年たったあとの作品が、言葉も文化も全く違う未来の人に見つけられたとき、
これは宝物に違いないと思って大切にされるような作品を作りたい。」という言葉です。
流行を超えたところにある普遍的な強さを表現したいと思っています。

 

-今後の夢や目標を教えてください

1020年と長く作家を続けていくことです。
そのためには見る人に喜んでいただけるような作品を作っていきたいです。



-最後に個展を見て下さる皆さまに一言お願いします。

決して派手で目立つ作品ではありませんが、長い間見飽きることのない作品になるよう精一杯描きました。
是非実物をゆったりとした気持ちでご覧ください。




藤井先生、ありがとうございました!

個展は1222()まで開催しております。

21()は先生も13時~17時より来場されます。
皆様是非ご高覧くださいませ!

過去のインタビューはこちら↓
こちらも是非ご一読くださいませ。
http://blog.livedoor.jp/soratobu_penguin/archives/9187506.html

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藤井誠

藤井誠

日本人の持つ美意識を、油彩という西洋の技法で写実的に描くことで、日本画とも洋画ともつかない、新しくもどこか懐かしい、「日本の写実」をテーマに制作する藤井誠(1984年生)。かつて印象派の画家たちが日本の浮世絵にインスパイアされ、新しい表現を開拓していったように、再度現代において日本と西洋の融合を模索しています。   形の定まらないものが揺れ動く様を油絵具で描き出すために、「水」をモチーフとして選び、描く度に姿を変えることの面白さや、造形的な美しさに惹かれて描き続けています。風に揺られ、光により色も変える、形のない物を感じられるような表現を目指す作家にとっても大切な存在となっています。   大学時代の恩師の「自分が死んで数百年たったあとの作品が、言葉も文化も全く違う未来の人に見つけられたとき、これは宝物に違いないと思って大切にされるような作品を作りたい。」という言葉に感銘を受け、流行を超えたところにある普遍的な強さを表現したいと思い、派手ではないが長い間見飽きることがない作品を目指します。   石膏地を支持体とした、伝統的な油彩画の技法をもとにした技法を使うことにより、塗り重ねられた透明色が作品に深みを加えます。また、この技法は石膏地に油絵が非常に良く吸着することから、長く保存が出来る技法としても知られており、長く愛される作品を作りたいという作家のスタイルに重なります。   特別な名所や景勝地を描いたものではなく、身近な足元の風景を描いたもので、決して派手な絵ではないが、日常の中に隠れた、身近でありながら美しい大切な風景を描き続ける“緩やかに優しい”作品。水の反射や、あえてアングルを近くして描くなど、例えるなら俳句の様に、描かれていない部分を私たちに想像させてくれます。   藤井誠 HPより