梅田綾香インタビュー

11月12日よりGallery Seekにて梅田綾香先生の個展を開催致します。
今回の個展テーマは「多元的ビオトープ」。本テーマに込められた想いや制作へのこだわりなどをお聞きしました。





■制作コンセプトを教えてください

蝋染めを用いて万物の中に無限に広がる世界を表現したいと思っています。
複雑化した芸術や宗教の根底にあるアニミズムの概念を基盤に、可視化できない多生物の視点、環世界、固定概念のない
生の自然を意識してイメージを広げています。
それを染色で表現することで画面上にも自然を生み出せると考えています。
水にのって動く染料は完全に制御できず、水や空気によって左右された偶然の表情は自然が生み出したものともいえます。
染色での布上の現象は自身のイメージを超えた自然をもたらし、そこから地続きする作品を生み出すことで、
新たな世界の外郭が現れ、蝋染めならではの世界を生み出していけるのではと考え制作を続けています。





「界の畦道」 F40

■今回の個展テーマを教えてください

今回の個展テーマは『多元的ビオトープ』です。
ビオトープ的な水辺を舞台に多元的要素や根源が重なり混ざり合う世界をテーマにしています。
水と陸、空と陸、水と空はそれぞれ二元的な世界の狭間が存在します。
その狭間はあの世とこの世のような異なる体系が混ざり合い新たな世界を生み出す場と考えられます。
多元的要素が混ざりあうこの森の水辺を舞台に、実際には共存しえない生き物や生き物それぞれの視点を絡ませて世界を
拡張し染色絵画で表現したいと思います。






■作品のインスピレーションはどこから生まれてきますか。

蝋染めによる新たな風景を生み出すというコンセプトの場合、普通なら気にもとめない場所を元にすることが多いです。
何か具体的に名所や風景をもとにするのではなく、例えば樹の根っこのごちゃごちゃした部分や、踏みつけられた落ち葉、
流木、雑草、煙、風呂の泡など、なんとなく気になったらとりあえず写真に撮っておきます。
それをもとにドローイングすると面白い形が見えたり、そのとき見えなかったものが立ち上がったりします。
そこからいろんなイメージを足して絵にすることが多いです。
染めているときになんとなく面白くなった部分から、次はこの表現をメインに作ろうと着想したり、
描いた作品の地続きの世界を考えることもあります。
具体的な対象を描く場合は、そこの民話や周辺の情報から妄想を膨らませています。




■大学で染織を専攻したきっかけはなんですか。

学部生時代はデザイン工芸科に在籍しており、1年次は現代アート的な実技をし、2年次から現代アート、立体、
グラフィック、メディア、染織、漆、金属と7つの分野のどれかを選択することになっていました。
当時コンセプトアートやデジタル的なものにをよくわからないまま取り組み、苦手になってしまっていたので、
コツコツやれば形になりそうな工芸をやりたいと思うようになりました。
そして工芸分野の中で1番色が使えそうという理由で染織を専攻しました。




■制作過程を教えてください。


①資料やドローイングをもとに構想を練り、図案を考えます。

②原寸大の下絵を描いて、布に書き写します。

③張木や木枠などでぴんと布を張って染め始めます。

④熱した蝋を置く(布に含ませる)とその部分は染まらなくなります。
(このように染めない部分を作ることを防染といいます)白い布地であれば白く残しておきたい部分から蝋を置いていきます。
 
⑤淡い色から染めていき、乾いたらまたその色を残したい部分に蝋を置いて、その工程を繰り返していきます。
 部分ごとや色数に応じてその回数は変わっていきます。
 
⑥完成したら蝋を落とす脱蝋という工程があり、布に付いている蝋を熱したアイロンと新聞で大まかに落とし、
 温めたドライクリーニングの溶剤に入れて蝋を完全に溶かし落としていきます。
 
⑥その後溶剤を揮発させて乾燥させます。
 絹であれば蒸し器で布を蒸して仕上げに酸で定着させ、綿であればアルカリ性の助剤を塗布し定着させます。
 定着が完了したら、水でよく洗い余分な染料や助剤を洗い流し、乾燥させて布が完成します。

⑦あとはパネルに張るなど表現に応じて加工、加飾して作品になります。




 

■制作の中でのこだわりを教えてください。

やり直しがきかない緊張感や、現象に翻弄される部分は難しくもあり面白くもあります。
染色は化学的な面があり、繊維によって熱や酸、アルカリで固着し、その際に色が変化したり、
水や熱を扱い作るので思い通りにならないことがあります。
その中で私は防染を狙い通りにすることにこだわっています。
防染部分をしっかりすることで偶然の表情も活きると考えています。
白場という素材の元の色が汚れないよう気をつけながら作業しています。
蝋を置いて防染しているとはいえ、蝋の上に染料が乗ると結局浸透して汚れたりするので、
蝋の上になるべく染料をかけないように工夫し、染めたあとは素早く余分な染料を拭き取るようにしています。
最初は実験的でよくわからないまま進めることになりますが、挑戦するたび発見があります。
表現方法も様々ですし、遊び心をもって取り組むことができるのが魅力だと思います。




 

■染色ならではの表現方法を教えてください。

発色の良さや他の絵画にはない色合い、古来から身近な存在の布を扱うというのはそれだけで特別な意味や
価値が発生すると思います。
また、支持体に絵の具を重ねていく油絵や日本画とは異なり、最終的に一枚の布の中に染色された層が存在し、
素材の美しさが全面に押し出されます。
染色は主に繊維を扱うので平面、立体、ファッション、インスタレーション、彫刻等いろんな表現方法があります。
そのなかでも何mもある大きなサイズから手のひらサイズの小さなサイズのものと幅があったり、
キッチュなものから高尚に見せるものまで、同じ染色でも表現方法は人それぞれです。
私は染色絵画がメインですが、布という部分を活かし着物や空間構成も挑戦していきたいです。




 
「水鏡」 F10         「野薊紋様」 F8

■これまで作品を制作してきて、過去と現在で心境の変化や作風が変わったことはありますか。

昔は蝋染めがとても下手で何もわかってなかったので、制作しながらいろんなことを実験的にやっていましたが、
院生時代には下書き通りに染めることができると感じました。
そうなると下図を再現する作業のようになってきて、染色で描く意味を考えるようになりました。
もちろん染色の魅力を述べたように、絵の内容以外で染色でやる意義はたくさんあります。
染色で絵画をやっているからすごいということではなく、染色でなければ生れ得なかった絵画にしたいと
考えるようになりました。
最近は更紗の構成や装飾的な要素を絵画に取り込みたいと思い、模様に風景を閉じ込めたような構図が多いです。
私は環境や心情によって作品の構成が変化するので、今後も作風が変化し続けたり、異なるテーマを
シリーズごとに展開していくと思います。





梅田先生ありがとうございました。 Gallery Seekでの個展情報はこちらからご覧ください。

梅田綾香 染色絵画展 -多元的ビオトープ- - Gallery Seek

 

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梅田綾香

梅田綾香

梅田綾香は伝統的な染色技法の蝋染めを用いて新たな絵画表現を追求している。 蝋染めは熱した蝋を筆にふくませ布に浸透させることで、その浸透した部分に染料が入らなくする模様染めの技法である。 梅田が染色で表現する理由は、自身の想像を超えた世界を表現できる可能性を感じているからである。 水に乗って動く染料の粒子は、完全に制御することはできない。 染色は絵画と異なり、「する」ものではなく、「なる」ものと言われ、時に誰もが想像し得なかった世界を生み出す。 梅田は染色によってできる新たな世界を見てみたいという衝動から、幼い頃から親しんだ周囲の自然を基盤にして、様々なテーマを蝋染めで表現する。   梅田綾香HP https://ayakaumeda-art.com//