三浦麻梨乃インタビュー

9月18日(金)より、個展を開催される三浦麻梨乃(ミウラマリノ)先生にお話をお聞きしました! 

 

 

-三浦先生はGallery Seekでは初めての個展となりますね。 
制作のコンセプトを教えてください。 

作品コンセプトは「ささやかな幸せ」です。 
身近にある豊かさを味わい、日々思い浮かんだ気持ちや、感覚を大切にしようという願いを込めています。 
自然の造形や小動物がふと見せる表情は、ときおり人間世界の出来事と重なって何気ないけれど大切な営みを教えてくれます。 

 

-個展のサブタイトルにはどんな意味が? 

今回のサブタイトルには「あそび心に幸あれ」とつけています。 
また、カエルが登場する作品を多めに展示しています。 
銅版画で初めて描いた動物がカエルでした。 
当時は大学生で油彩を学んでいたのですが、テーマに悩み、特別な事をしなければいけないという思いが先行して描く事が怖くなっていました。 
そんな時、銅版画の授業で子供の頃に身近にいたカエルを描いたのですが単純に楽しく、まさに「童心にカエル」出来事でした。 
カエルはしっぽがないので、人間に似ていて擬人化しやすいです。 
この機会に小動物をよく描くようになりました。 
生活の中に面白さを見つける視点を、絵作りに活かしています。 

 

-創造の種はどんなところにありますか? 

生活の中で体験した、心が穏やかになる瞬間をヒントにしています。 
例えばタイトル「光のせせらぎ」は、空から降り注ぐ“光のはしご”を題材にしています。 
子供の頃、学校の帰り道でよく見かけていたその美しい光景に、心が癒されていました。 

 「光のせせらぎ」 ハーネミューレ紙、雁皮紙/エッチング、一版多色刷り 
落ち込んだ時に見ると気持ちが前向きになりました。

以心伝心-min
「以心伝心」ハーネミューレ紙、雁皮紙/エッチング、一版多色刷り
タイトル「以心伝心」は自宅の庭に咲くユリの上にカエルが二匹向き合っている姿が、お互いに心を通わせている友人や恋人、家族のような関係に重なって見えてきました。 
その姿を作品では絵画的に構成して描いています。 


 tiny三浦麻梨乃箱座りのメソッド
「箱座りのメゾット」ハーネミューレ紙/エッチング、一版多色刷り、手彩色
作品タイトル「箱座りのメソッド」は飼い猫がティッシュ箱の上に座り、くつろいでいる姿を描いています。 
香箱座りという座法でリラックスしている状態だそうです。 
箱の上に箱座りしている面白さをそのまま描きました。 
私達人間もそれぞれ心が安らぐ場所があります。 
子供の頃は限られた環境の中で楽しさを発見できていました。 
大人になってからは色々目移りしてしまい、目の前にある豊かさを見失っていましたが、小動物たちを見つめる事でその気持ちを取り戻せました。 
私達は日常の中で心の支えとなる事を探しながら生きています。 
あそび心を持って生活の中にささやかで楽しい事を見つけ出す。 
その積み重ねが心を潤わせ、幸せをひきよせると感じています。



-作品のどこを一番見て欲しいか教えてください。 

動物の表情です。 
パロディ要素も取り入れてあどけなさを演出しています。 
タイトルにも注目してもらいたいです。 
耳慣れた言葉やダジャレを使って、ユーモアを大切にしています。 
版画はタイトルが画面下に入っているので、作品と合わせて楽しんでもらえると思います。 
タイトルは見る人の気持ちが前向きになる“おまじない”のような感じです!

 ババンバ バンバン パンプキン_RGB-min
ババンババンバンパンプキン」作品一部



-三浦先生の作品は飼い猫がモデルになっているものもありますよね。 
動物はどのように取材されているのですか? 

今まで飼育したことのある動物を基にその時観察していた動きを構想に取り入れています。 
過去に金魚、カメ、ハト、ウサギ、イヌ、ヤドカリ、ハムスター、カエルを飼っていました。 
バッタやカマキリ、蝶などの虫は子供の頃は網を使わず素手で捕まえていました(笑)。 
今は自宅に猫が同居し、庭にカエルがたくさん住んでいるのでその子達がモデルです。 
飼えない動物はペットショップや動物園、水族館に行って観察します。 
また、動物骨格の本を見て参考にしています。 
テーマに合わせ動物のしぐさを選び絵作りしています。



- 三浦先生が作家を志そうと思ったのはいつ頃ですか?

小学4年生の時に将来の夢について作文に「画家」と書きました。
子供の頃はひどく恥ずかしがり屋で、幼稚園生の時に一人で絵ばかり描いていました。
そんな毎日の中でクラスの女の子が「上手だね、私に絵を描いて!」と声をかけてきてくれた事がきっかけで友達ができました。
絵を描く行為で、人が喜んでくれる体験をした出来事でした。
それからは絵を描く事が心の拠り所になり、現在に至っています。



-三浦先生は、文星芸術大学で油絵を学ばれていたとの事ですが、油絵から版画にされたのは何故でしょうか? 

学生時代に銅版画の授業で初めて制作した作品がきっかけです。
大学に進学してから、描くテーマに思い悩み鬱々と過ごしていた時期がありました。
そんな時、銅版画の授業があり、先程お話にも出ていましたが、小動物(カエル)を描いたところ、納得のいく作品を仕上げる事が出来ました。
その後卒業制作を油彩画か銅版画にするか悩んだのですが、銅版画を選択しました。
文星芸術大学は版画専攻がなく銅版画の常勤講師もいません。
先生や友人からは心配されましたが、その時は若さゆえの根拠のない自信で突き進みました。
結果、賞を頂け賞金で道具を揃える事が出来ました。
ギャラリーでの企画展も決まり、卒業後も制作を続けられました。



- 数ある版画の技法の中で、何故銅版画を選ばれたのでしょうか? 

銅版画は点と線を主体に描画を進めていきます。
肉薄してコツコツと描き進められる事と、小動物の繊細な表情の表現に合っていると思いました。
版に一度傷をつけると修正が効きにくいのですが、それが逆に緊張感を生み作業を進めやすいと感じています。
版のミゾに入ったインクが紙に刷られた時に立体感のある点と線になり、その絵肌の魅力に惹かれました。
工程が「下絵、製版、刷り」と分かれている事も客観的に作業を進めていくうえで煮詰まりを防ぐとこが出来、その潔さがメリットだと思います。



- 制作手順を教えてください。 

版画は「下絵・製版・印刷」の工程を経て完成します。
①最初に画面サイズを決めて下絵を描きます。
ネタ帳のようなものがあり、普段からアイディアスケッチをしておきます。
あらかじめ取材をして、あたためている構想もあります。


②下絵ができたら版に図を描刻していきます。
銅版画は凹版と呼ばれ、銅の板に削った線や点の凹みにインクを詰め込み、それが図として紙に印刷されます。
数ある技法の中でエッチングを用いています。
直接版に傷をつけるのではなく、腐蝕作用により間接的に描刻する技法です。
0.8㎜~1㎜厚の銅板に防蝕剤を塗布してニードルという鉄筆で膜を削り描画します。


③腐蝕液に浸します。
膜を削って露出した部分だけが腐蝕され、溝ができて図が刻まれます。
溝の深さを腐蝕時間の長さで調節します。
最初に太く強い線にしたい部分から描画を始めて腐蝕、次にそれより細い線にしたい部分を描画して腐蝕をする作業の繰り返しです。
最初に描画した部分は時間が加算されていくので腐蝕が進み、溝が深くなっていきます。細い線は腐蝕時間が短いので溝は浅くなっています。
また、アクアチントと呼ばれる「面をつくる」技法も合わせています。


④試刷りをしながら描画の進み具合を確認して版を完成させます。
印刷しないと画面の状態が確認できない事は不自由ですが、それが私には合っています。
印刷すると図の向きが反転するのですが、その時に一旦客観的に作品を俯瞰できて加筆作業に役立ちます。
刷りは一枚の版に複数の色インクを詰め分け一回で印刷する「一版多色刷り」を用いています。
色の調和にコツが必要で、こちらは作家のセンスが出てくるところです。
色を詰める順番や組み合わせに苦戦する事が多いですが、ピタッとはまった瞬間は楽しいです。
また、雁皮刷りという技法も用いています。
ハーネミューレ紙を土台にして画面と同じサイズの雁皮紙という和紙を重ねています。
雁皮紙はインクの吸い取りが良く、画面に重なることで深みが増します。
また、中には刷った後に部分的に水彩を入れる作品もあります。
詳しくはYouTubeチャンネル「銅版画で童心にカエル」で作業の様子を紹介しているのでぜひご覧ください。



- 技法の中ではどこに一番こだわりを持っていますか?

刷りで行う色彩の調和です。
初期の作品はモノクロームで点と線の描画が主体で、面の表現はとりいれていませんでした。
次第に色彩を取り入れた方が、より温かみのある画面を演出できるのではないかと思いました。
色数を増やすためには色版の数を増やして刷る、「多版多色刷り」もあります。
しかし、大学生の前半は油絵を描いていた事もあり、絵画のような感覚で一枚の版の上で色を詰め分けて刷る「一版多色刷り」を選択しました。
銅版画は油性のインクを使うので、色の組み合わせを考える時に油彩画の感覚が役立っています。
同じ色のインクでも線の溝に入った時と面の溝に入った時に印刷時の色の出方に変化が出てきます。
それが面白いなと感じています。
銅版画は硬質な表現になりやすくそれが魅力ですが、私の作品は温かみと物語性のある画面が持ち味なので、色彩の表現がその演出を可能にしています。



- 何故「刷り」の表現にこだわる様になったのでしょうか?

製版の描画作業に重点を置いていましたが、刷り作業も重要で、もっと腕を磨きたいと思っていました。
近年は多色刷りが主体ですが、この期間を経て表現するモノクローム作品をまた制作したいと考えています。



- 今回の出品作の中で一番見てほしいと思う作品を教えて下さい。

「陽がまた昇る」というタイトルの作品です。
富士山からの日の出をアサガオと共に迎える六匹のカエルを描きました。
富士山は初めて描いたのですが、昔から多くの画家が描いてきた身近なモチーフなだけに、自分ならどう描けるか考えていました。
六匹のカエルは縁起物の置物でよく見かけます。「迎える」を「ム(六)カエル」でかけ合わせています。
こんな世の中だからこそ、作品を見て前向きになってもらえたら嬉しいです。


「陽がまた昇る」ハーネミューレ紙/エッチング、一版多色刷り




- 影響を受けた作家・作品を教えてください。

ジャンル問わず、日常の生活、身近な対象を描いている作家に惹かれていました。
現在の自分の作風と技法もまったく違うのですが、予備校生の時にフェルメールの「手紙を書く女」を観た体験は印象的でした。
当時の展示会はフェルメールがその1点のみで他は同時代の画家たちの作品が並んでいました。
その中で画面の力が一際強い事に衝撃をうけました。
見る人を惹きつける力は作品の大きさや迫力ばかりではないのだなと感じ、構図や絵作りの勉強になりました。
伊藤若冲の「菜虫譜」は野菜と虫がデフォルメされていて愛嬌がある姿に演出されており、大好きな作品です。
版画家では浜口洋三が好きです。
身近な果物や静物をメゾチント技法で神秘的に深みのある世界に昇華させているところは秀逸で憧れます。
鳥獣戯画はシンプルな線描で擬人化された動物たちが躍動的に活き活きと表現されていて物語性のある世界感が好きです。



- 作家として最も大事にしている心構えを教えてください。

第三者の視点を持って楽しむ事です。
自分らしさを持たせながらも、観る人が楽しめるように客観的な視点を持って演出する事を心掛けています。
制作を永く続けていく為には、作家自身が楽しんで制作に取り組めるようにモチベーションを維持する工夫をする事が大切です。
なかなか難しいですが試行錯誤をしながら、好きな事で生きていく為に、必要な事をしています。
例えば、専業の版画家として活躍している作家さんと交流して勉強したり…。
美大時代はどうすれば画家になれるのか、どうやって生計をたてるのかなど分からない事が多かったです。
昔は版画家が多かったのですが、段々数が減ってきていているので情報交換は大切だなと感じています。
実践した上で自分に合ったやり方に変えて、今必要な努力をしています。



- 三浦先生にとって絵を描く事はどういった行為でしょうか。

人とのつながりを広げるコミュニケーション術であり、生きがいです。
作品を通して生まれる出会いは、活動をしている中で楽しみにしている事です。



- 今後の夢や目標を教えてください 。

近い目標では、版画をだいぶ続けてきたので、絵画も制作していきたいです。
動物のふわっとした毛並みなど、繊細な表現を今だからこそできる絵画表現で追求したいと思っています。



- 最後に、作品を観に来て下さる皆様に一言お願いいたします。

コロナ禍により「あたりまえの日常」が目まぐるしく変化して、気持ちを休めることが難しい日々と思います。
あそび心を大切にしたクスっと微笑むような作品を制作しました。
幸せの物差しは人それぞれ形が違いますが、茶柱が立った時に感じるようなほっこりした気分になってもらえると嬉しいです。
作品が暮らしの中に色を添える存在になれれば幸いです。




三浦先生、ありがとうございました!

Gallery Seekでは初めてとなる個展、是非ご高覧くださいませ。

三浦先生のYOUTUBEチャンネルはこちらから
「銅版画で童心にカエル」

→ https://www.youtube.com/channel/UCVZq6R3GJ3DkbAwQumdgBfQ

「三浦麻梨乃 銅版画展 -あそび心に幸あれ-」
9月18日(金)~9月27日(日)
会場:Gallery Seek
出品作家:三浦麻梨乃
作家来場日:9月18日(金)・19日(土)

銅版画家・三浦麻梨乃。彼女が制作する上で表現するテーマは、「ささやかな幸せ」です。
それを小動物や草花に重ねて「小さな命の物語」を描いています。
しぐさや表情に癒され、勇気づけられるという動物たちは、気づかぬほど自然に繰り返す営みの中に、大切な事があると、そっと諭してくれるといいます。
じっと近くで見てみると、こっそりカエル同士が目配せしていたり、小さな草花が隠れていたり…。可愛らしさがありながらも、どこかユーモラスを感じる作品たち。
Gallery Seekでは初めての個展となります。この機会に是非ご高覧くださいませ。