菅かおる作家インタビュー

現在Gallery Seekにて個展を開催されている菅かおる先生にお話を伺いました!
菅かおる

菅先生は水を一貫してテーマとして描かれてますよね。
そうですね。
最初のきっかけは金魚鉢でした。
もともと九州の実家の庭に置いてあって、真上からぼんやり眺めていると気持ちよさそうに泳ぐ金魚は空を回遊する飛行船のように、水草は海の上に浮かぶ島のように見えました。
その時浮かんだ情景は写実的ではないけれど動いているようで、立体感も遠近感も越えた、美しい光溢れる水の絵になりました。
当時は美大の3年生で、それ以来その時に思い描いた絵を実現させたいと思い水を描き続けています。

やはり水という実体のないものを描くことは難しいですか?
難しいですが、光の強さによって捉えどころなく変幻自在に輝く所に逆に魅かれています。
表現の仕方も自由ですし。


今回の個展ではお花の作品がメインですよね。
はい。
花や、もちろん金魚や海草も、水の周りの幸福な象徴として描いており、それらが水に映し出す、色彩の
美的で根源的な感覚を作品に注ぎたいと思っています。

菅かおるS3環の中のぽんぽん菊

「環の中のぽんぽん菊」S3

ぽんぽん菊はどこか気張らないころころとした可愛らしさがあると思いました。
そこにはやっぱり丸い形に秘密があるのかなと。
なので直線をどこにもなくしたくて、車輪梅やペリカムなど、すべて丸い形をした実の植物を組み合わせました。水面には丸い水泡をいくつも描いています。

確かに菊というと高貴なイメージがありますけどそれを持ちつつも不思議な可愛らしさがありますね。
作品もどこか装飾的な魅力を感じます。
菊は昔から家紋や和菓子など日本美術の中でも装飾的に表現されることが多く、幸福のシンボルだったそうです。
水もまた装飾的な文様として様々なデザインのものがあり、私は私なりの水の文様を作り出していきたいと思っています。


当時は美大の3年生とのことですが、もともと絵を描くことはお好きだったんですか?

幼少の頃から絵を描くのが好きで、自然と絵を描く環境にあり 美大へ進みました。
何かものを作る仕事につきたいという
気持ちは常に持っており、様々な選択肢の中で美大で日本画コースを卒業後、日本画家として進んで行くと決めました。


大学は京都造形芸術大学をご卒業されていますよね。
現在も京都に住んでらっしゃるとか。
京都は歴史が過去の終わった出来事ではなく今へ繋がる出来事として息づいている街です。
伝統文化に接する機会があると同時に、関西を拠点に制作している作家さんが実はとても多いんです。
コミュニティもあるので刺激を与えてもらっています。

絵画だけではなく様々なジャンルの作家さんがいらっしゃるんですか?
そうですね。陶芸、工芸、現代アートとかです。
日本画というジャンルは、伝統技法を更新することで歴史と繋がってきたと思うので、ただ技法を守るだけではなく様々なジャンルの作家の仕事を身近に観て刺激を受けることができるのは京都ならではの制作環境だと思っています。

東京などとはまた違った面白さがありますね!
日本画家、千住博先生に師事されたのはいつ頃ですか?

大学を卒業した1年後で、新生堂さんというギャラリーが主催している公募展に応募したことがきっかけでした。審査員の中に千住先生がおられて、賞をいただいたのち、グループ展に声をかけて頂いて今に繋がっています。


-そうだったんですね。影響を受けたり、お好きな作家さんはいらっしゃいますか?

土田麦僊、小倉遊亀福田平八郎、宗達ボナールミロカンディンスキー です。

-洋画もお好きなんですね!
そうですね。始まりは海外の洋画家ですね.
ミロもヨーロッパで原画を見て好きになりました。

-ミロやカンディンスキーの幾何学的な表現の仕方とか近年展開されているシリーズに通じるものがある気がします。
AQUA(star)
「AQUA(star)」 S6

このシリーズは海の底を想像しながら描いています。
貝殻や海藻などを海辺で拾って来たり、お店で売られている珊瑚や遠い海からやってきた巻貝などを集めて。
古代の人は海の底と空が繋がっている、という考え方を持っていたというのをどこかで読んだことがあります。

ロマンチックですね・・・!見ていると海の底のようでもあり宇宙のようにも見えて不思議な気持ちになります。
ありがとうございます。
描いている曲線も、法則的な直線も等しく有機的に包み込まれたひとつの世界を創り出そうと思いました。

-制作手順を教えてください。

日々、この情景をあの絵の具で描いたらどうなるだろう、あの模様を 箔を使って描いたらどうだろうなどと、そんなことばかり考えていて、モチーフの発想はそのような生活の中で感動した情景から降りてきます。
技法の基本は麻紙に岩絵の具や箔をつかった伝統的な日本画の手法を用いており、その中で新しく独自の技法が生み出せるよう試みています。

描くものが決まったら小下図を描き、絵のタイプによっては下絵を描かずに進めるものもあります。

-日本画は下絵を描いて念紙で写して・・・という行程のイメージがあったので驚きです!

小下図は描きますが、大体自分の中で配置を決めて大きめの筆でバサバサと色を置いていきます。
そこから細かいところを描いていったり。
麻紙の上に絵具を塗って下地を作っているので紙も傷つかないんですよね。

-なるほど・・・。日本画は様々な描き方があるんですね。
技法の中で一番こだわっている所はありますか?

日本画絵の具の色の美しさを損なわず最大限に活かすことです。
天然岩絵具を出来るだけそのまま使うようにしていて、混色は殆どしません。
絵画の唯一無二性を岩絵の具の物質感によってより強めたいと思っており、
実物を見た時に感じる絵の具のもつ力を大事にしています。


作品の色合いも透明感があって綺麗だと感じていましたが混色を殆どされてないという所もあったのですね。
菅先生は壁画のお仕事もされていますがこちらはかなりの大作だとお聞きしています。

壁画の制作体験は、何よりサイズの大きな作品を日本画で描けたというのが、作家として活動したての私にとって大きな経験でした。

数種類の作品を見て頂いた後、エントランスの壁面を水の絵で飾るというご依頼を頂きました。
社員が元気になるような絵、その事以外は、あなたが今1番良いと思う絵を描いてくださいということで作品のサイズさえも自由を与えて頂きました。

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「巴バルブ株式会社」本社エントランスに設置された200×730cmの壁画「光+水= 」

パネルを何枚も合わせてるんですね。
制作依頼というと様々な注文がありそうですが自由に描いていいというのは素敵ですね。
どのようなサイズにするか、変形にするか悩みましたが7.4mの壁の面を最大に使った形になりました。
一階のエントランスはガラス張りで外からも見える会社の顔になる場所です。
場所に合わせて制作するという事についても学びました。

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京料理「木乃婦」大宴会場に設置された156×351cmの作品「水景色」

京料理木乃婦の大広間は冠婚葬祭など様々なシーンで利用されるお部屋で、毎日大きな生花が活けられる場所でした。

何より、伝統ある京料理を受け継がれ、更に革新的で四季折々の味わいが日々生み出されるお料理を味わう場所であること、その場所に置かれる絵である事は、私が絵を描くにあたり今までにない挑戦でした。

お祝いの席や悲しみを癒す席や、人生での様々なシーンに美しく寄り添うような絵を描きたいと思いました。何度か修正をしながら、私にしか描けない絵でこの場所にしか合わない絵を描くことが出来たと思っています。

その体験は私に大きな自信を与えてくれました。


-では、作家として大事にしている心構えを教えてください。

描きたいと思った気持ちを大事にすること。
なぜ描きたいと思ったのかを深く掘り下げて作品にするまで諦めないこと。
辛いときでも、絵が硬くならないように、歌を歌うように描くこと。
描いている時、心の底から楽しむ瞬間を感じること。

-ありがとうございます。
今後の夢や目標を教えてください。

まだ頭の中にある絵を全て作品化することが夢です。

これからも、海外など、より多くの人に作品を見て頂きたいです。

-弊社は海外でのフェアも参加しているので今後菅先生の作品が海外の方からどんな反応が得られるか楽しみですね!
最後に個展を見てくださる皆様に一言お願いいたします。

今回の個展は、「環()の中の永遠」というサブタイトルをつけました。
円形の水の中に浮かぶ花の絵を中心に展示しています。 過ぎてゆく季節や命を水に浮かべて絵の中で楽しむ、そんな気持ちで見て頂けると嬉しいです。


-菅先生、ありがとうございました!
個展は19日(水)17:00まで開催しております。
皆様是非ご高覧くださいませ。

「菅かおる 日本画展-環の中の永遠-」
9月13日(木)~ 9月19日(水)
会場::
Gallery Seek
出品作家:菅かおる
作家来場日:9月13日(木)、15日(土)、17日(月)各日13時~17時

生命ある水の神秘、力強さに魅かれ、水をモチーフに描き続ける女流画家。自然が生み出した豊かな曲線も法則的な直線も、等しく有機的なひとつの世界に包み込まれています。花や金魚や海草も、水の周りの幸福な象徴として描いており、それらが水に映し出す、色彩の美的で根源的な感覚を注ぎ込んだ作品を是非ご高覧下さい。