米村太一インタビュー2020

個展は2021年に延期となってしまいましたが、今回はこの場にて米村先生のインタビュー&新作をご紹介させて頂きます♪
web上ではありますが展覧会に来ているような感覚で是非ご一読くださいませ。

 

-今回の新作のテーマを教えてください。

サブタイトルにもしているのですが、「交錯」には、「いくつかのものがいりまじる」という意味があるそうです。

今回の個展では、2つの「交錯」を意識しています。

1つ目は制作する上での視点となっている、〝子どものような仕草や大人びた表情等の交錯”、2つ目は〝人物を描くときに大切にしている視線の交錯”です。

 

-作品ごとに異なる交錯が入っているのでしょうか。

今回、作品のテーマとして意識した「成長」の中で、人は子供っぽい仕草や表情と、大人っぽい仕草や表情がいりまじる瞬間を見せます。

その様子を交錯という言葉で表しています。

「二重奏」M6

「ときおび」SM
また、会場内での視線の交錯があります。

描かれた人物の視線の向きは、感情や物語性を内包させ、また感じさせることのできる要素だと思います。

今回は、特に作品ごとに人物の視線の向きに気を使ったので、会場内で彼女たちの視線が交錯するかと。

まずは鑑賞者の判断で作品を見ていただきたいなと思っています。

そうすることで、会場内で作品どうしの視線に加え、鑑賞者の視線もまた交錯するのではないかと。

「陽ざし」M6
-約2年ぶりの個展となりますが、制作されてきた中で心境の変化はありましたか。

今までは、「時間の積み重ね」が絵を描く際の視点だったのですが、そこに「成長」というニュアンスが加わり、人物を描く上での視点が以前よりも鮮明になりました。
-それは何故でしょうか?

人は時間を重ねることで成長しますが、成長の中には順調な前進だけでなく、後退もあり得ます。

前進と後退が交錯し、それぞれが時間の積み上げ方を模索しているような姿に、良い意味で「人間味」を覚えるようになりました。

 

-自身の体験などからそういった事を考えるように?

教員として子供たちと関わることが多く、学生の頃のボランティア経験なども含めると、15年ほど小学生から大学生まで関わってきました。

彼らと関わる中で、人の成長を目の当たりにすることは多いです。

もちろん、自分もまだまだ成長したい部分があります。

そういう意味で、子供の成長というよりは、人が成長しようとして試行錯誤する姿勢に魅力を感じるのかもしれません。

なお、昨今ナーバスな言い方になるところではありますが、男の子より女の子の方が成長における振れ幅が大きいように感じます。

例えば、女の子は好きな子ができたとか大人っぽい会話をしている中で、男の子は相変わらずゲームの話をしていたりとか(笑)

いりまじる子供っぽさと大人っぽさに開きがあり、よりドラマチックに見えるので、女性像として描いているというのもあると思います。


「赤光」SMS
-「成長」が新たにテーマとして加わりましたが、元々「時間の積み重ね」をテーマにしたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

大学生の頃に遡るんですけど、何をテーマにして描こうか?と考えた時、「死生観」を思いついたんですね。

自分はどこから来てどこへ行くのか…みたいな学生の時になりがちなテーマだと思うんですけど、いざ考えると自分は両親も健在してるし、何なら祖父母もピンピンしてるなって(笑)

死生観に触れるような機会がそもそもなかったんですよね。

 

でも、自分が今まで積み重ねて続けてきた事って裏切らない。

元々、自分が出来なかった事が出来るようになったり、出来た瞬間とか、人がそうなっている時の表情を見るのがすごく好きなんですね。

そういった時間の積み重ねを描きたいなと思いました。

先程の教員生活の中で子供達と関わっていた時の話にも戻りますけど。

また、時間の経過を感じるようなアンティークのモチーフが好きで。

 

-作品の変化はありましたか?

これまでの絵の描き方に慣れてしまったところがあったので、刺激を求めて使ったことのない画材を使ったり、画面や下地の色調を変えたりして、今までよりも画面の中で遊んでいます。

 

-具体的にはどんな事をしてらっしゃいますか?

S30号の「狭間にて」を中心に、アクリル絵具や油絵具をエアブラシで吹き付けた下地を施して、その上から油絵具で加筆する方法を試しました。

アクリル絵具は油絵具との併用に関しては課題の多い画材ですが、油絵具だけでは表現できない滲みやタッチが生み出せます。


「狭間にて」S30


「狭間にて」S30 雲の部分など主に背景に使用しています。

「黙し」SM


「黙し」SM 背景部分

アクリルは厚塗りが出来るのに、水墨画のようなふわっとしたぼかし方ができる所が良いですね。

また、写真のような「ぼかし筆」を場合によって使用しています。

こういったぼかし筆やエアブラシを使いながら、試行錯誤しつつ制作しています。

 

-「狭間にて」S30は風景を取り入れていますが、どんなイメージで描かれたのでしょうか?

ここは佐賀の岩場で実際にモデルさんにポーズを取ってもらい取材しました。

それぞれの時間の重ね方で変化してきたこれまでと、変化し続けるこれからの狭間の今、この瞬間をイメージしています。

佐賀に久しぶりに戻った時、空がとても広いなあと思いました。

東京はビルや建物が多いですが、地元の熊本もこんな景色はあまりない。

岩と空がすごく近くて、一体化しているように感じました。

作品に風景を取り入れるのは、岩の苔むした感じとか、月の満ち欠けとか、自然って時を重ねてきたからこそ魅力的な部分がたくさんあって、僕がテーマにしている所と重なるので描いています。

 

-今後新たに挑戦したいことはありますか。

絵の中身ではなく、絵そのものの物理的な存在感の強さに意識を置いた作品も描いてみたいと思います。

 

-米村先生の考える「物理的な存在感の強さ」とは何でしょうか?

油絵具を始め、画材の物質感で見せられることだと思います。

凹凸や、意識的に平滑にしたようなマチエル、絵の具が持つとろみのある質感などが、描かれたものとはまた別のベクトルで美しさになっているような作品に憧れます。

昔の話になりますが、教員として佐賀大学に戻ったら、当時僕が描いた作品を保存してくれてたんですね。

その作品と7年ぶりの対面となったわけですが、金属板を貼りつけたり結構いろんなことを画面上でしていて。

自分は昔からこういう事がしたかったんだなと思いました。

写実画は平面的な作品が多いですが、この事から原点に戻る作品を作りたいと考えるようになりました。
また、最近はこんな感じの作品も描いています。

まだ途中経過の段階なのですが…。

下地では、ポーリングメディウムとアクリルを混ぜてマーブリングしています。
「MEISAI」シリーズとして描いていきたいなと。

※マーブリング
ゴム樹脂の水溶液に、水分に反発する描画材を落とすことで、水面上に描かれる複雑な模様や図柄を、紙などの支持体に写し取る技法です。 15世紀頃にトルコで生まれとされ、書籍の装飾用の紙などにこの技法が使用されてきました。

 

-最後に作品を見て下さる皆さまに一言お願いします。

人物の視線には、何らかの意思を持たせられるように意識して描きました。

皆様の絵を見る視線もまた、新たな「交錯」を担いますので、ぜひ作品達の意思を感じ取りながらご高覧いただければ幸いです。

-米村先生、ありがとうございました!
作品はHPからもご覧いただけます
https://s-art-web.com/sakka/profile/500.html

過去インタビューはこちら
http://blog.livedoor.jp/soratobu_penguin/archives/8527999.html

 

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米村太一

米村太一

刻々と過ぎ、万物に多彩な変化をもたらす刻の流れ。そこに存在するもの達を、時に儚げに、時に優雅に描くことができればと思っています。   米村太一 HP https://www.yonemurataichi.com/