明日より個展が始まります、日本画家・山﨑有美〈ヤマザキユミ〉先生にお話を伺いました!
–山﨑先生は、今回Gallery Seekでは初個展となります。
50号の大作は圧巻ですね!
ありがとうございます。
この作品は今回の作品の中でも一番力を入れた作品なので嬉しいです。
写真では水の表現や色味、また奥行きが伝わらないと思いますので生で是非ともいろんな角度から見て欲しいです。
-近くで見てみると3Dのような、絵が浮かび上がっているように見えるのですがこれはどのように描いているのですか?
絹と和紙の二重構造で描いています。
手順としては、
①テーマやイメージを膨らませながらドローイングを描く
②それを元に小下図
③大下図
④トレース
⑤和紙と絹それぞれに描く
⑥調整しながら最後に絹と和紙を重ねる
岩絵の具や染料はほとんど天然のものを使っています。
-なぜこの技法に辿り着いたのでしょうか?
以前は和紙に更に薄い和紙を重ねる技法で描いたり、絹に描いたり裏彩色
(※裏彩色・・・中国・日本画で、絵絹の裏側からも彩色すること。色をぼかし柔らかい感じを出す効果がある。また、その彩色。裏塗り。)
したりと試行錯誤をここ数年繰り返していました。
和紙と絹どちらの特色や持ち味をうまく融合させる事が出来ないか考えるようになり、今の技法を思いつきました。
その中に作品のテーマ性や意味合いを投影する事も出来るのでは?
2つの要素を融合させる事によって、私の表現したい世界感がつくれるのではと考えたからです。
-作品のテーマとしてはどのような意味を込めてらっしゃいますか?
先程お話していた、和紙と絹の二重構造の新しい技法で二層に描き表現する事によって、女性や花の儚さと内に持っている強さなど、両義性を表現できたらと思い描いています。
そこに見え隠れするアンビバレントな感情を抱いてもらえたらと、願っております。
「灯花-ナルキッソス-」M4
-山崎さんの作品は以前よりお取扱させてきておりましたが、今回の作品を通してぐっと世界観を確立された印象を受けます。
花や静物は以前から描かれていましたが、より柔らかく、こちらに問いかけてくれる魅力を感じます。
ありがとうございます。
昔からミラーハウスや鏡に映った花や蝶、蝋燭などのモチーフが好きで。
人は鏡という存在を知り、作り、映すことによって自我意識が生まれたと言います。
鏡を見ることによって実像と虚像の存在を知り、世の中の境界線を意識することになります。
今回の出品作である「灯花-ナルキッソス-」M4のタイトルからもきているのですが、ナルキッソスはギリシア神話に登場する美少年です。
川の水面に映る少年に一目ぼれし、そのまま少年から離れられなくなりやせ細り死んでしまう。
それは自分自身だった訳ですが・・・。
死んだあとそこには水仙の花が咲いていたそうです。
客観性を得る事と同時に没入させる事もできる魔力を持っている。
やはりそこにはアンビバレンツが存在していて、鏡は女性像の象徴やメタファーにもなると考えて制作しています。
-女性像は去年から挑戦されてますよね。
そうなんです。
「現代を生きる女性」をテーマに自分自身の経験や思いを社会の動きと重ね合わせながら作品に投影させています。
二層には「ふたいろ」という意味を込めて、鑑賞者に女性の儚さや内に秘めている強さが同時に見え隠れするアンビバレントな感情を抱いてもらえたらと思っています。
-女性像はモデルさんがいらっしゃるのですか?
モデルさんにポーズをとってもらってスケッチはしますが、顔や雰囲気はイメージで描いてます。
多少自分の骨格がベースになっているのかも。
例えば表情も、伏目だからこそどこを見ているかわからない。
おっしゃって頂いたように、閉じているかいないかのぎりぎりのところに観る側の想像力をかきたてるというか、委ねたいと思っています。
そこは女性像に限らずで、あえて正解を決めたくないと考えてます。
-物心ついた頃から絵がお好きだったのですか?
そうですね。
表現する人になりたいと思ったのは子供の頃からです。
きっかけとしては小学生の時に足を骨折してしまい、自由に外に出て遊べなくなった時に、担任の先生が絵のコンクール応募を勧めて下さいました。
その作品が受賞して自信に繋がったという出来事は大きなきっかけとなりました。
今でもその先生とは親しくさせていただいており、大変感謝しております。
-先生といえば、大学は愛知県立芸術大学を修了されていますが、日本画家・松村公嗣先生に師事されていますね。
松村先生には素晴らしいご縁をいただき、卒業後に奈良県の春日大社に奉納する「平成若宮おん祭り絵巻」という創作絵巻の助手を2年半ほどさせていただきました。
今は春日大社の宝物館に納められていますが、そこに自分の名前も入れていただきました。
「平成若宮おん祭り絵巻」は、平安時代から続く春日若宮おん祭の現在を描いたもの。
春日若宮おん祭は、奈良県の春日大社の摂社若宮神社の祭祀として、毎年冬頃に数日に渡って行われる祭礼です。
とても歴史のあるお祭りで、1136年に関白藤原忠通によって始められてから八百七十有余年にわたり一度も途切れることなく続いているそうです!
-こちらは5年がかりで制作、65メートルを超えるものだとか。
すごいですよね。
間近で先生の絵の具の使い方や知識を教えていただき、日本画の奥深さや画家としての心構えを一から教えていただけたと思いますし、感謝しています。
日本画を続ける事を悩んでいた自分を奮い立たせ、決意させるきっかけにもなりましたね。
-日本画を続ける事を悩まれていたのですか?
そうですね。
一言では伝えられない様々な理由がありますが・・・。
自分の気質や表現に合っていないように感じ、思い込んでいたからでしょうか。
正直大学院くらいまでは油彩の方が気質に合っていると思っていたくらいでした(笑)
けれど難しく、うまくいかないからこその、やり甲斐や技法の幅広さに興味が持てるようになり、伝統的で原始的なこの絵画技法の奥深さに魅了されました。
天然の鉱物や染料の持つ美しさをダイレクトに感じられるのも魅力です!
全て自然と繋がっていると実感できます。
-様々な悩みがあったからこそ今の作風に繋がっているんですね。
また、2015年にテレビ朝日ドラマ「スミカスミレ」の屏風絵制作もされていますよね。
昔漫画家になりたいと思っていた時期もあるくらい少女漫画好きなので、漫画が原作のドラマという事でとても嬉しい依頼でした。
このお仕事は、元の絵のイメージや監督さんの要望もあって、何枚か下絵を送って修正をくりかえしながら徐々に形になりました。
普段ここまで制作の時に修正を繰り返し描く事が無いので難しかったですが、大変勉強になりました。あと想像していたより沢山映ったので驚きました!
ドラマ撮影見学もさせていただき、俳優さんとご挨拶したりと素晴らしい経験になりました。
その後も単発ドラマや映画に少し作品を使ってもらっています。
-影響を受けた作家・作品はありますか?
村上華岳 高山辰雄 速水御舟 手塚雄二
海外の作家ですと、ルオー クレー ピエロデラフランチェスカ ポンペイの壁画です。
-フランスやイタリアの作家、宗教絵画にも影響を受けてらっしゃるんですね。
元々西洋美術史が好きで勉強してきました。
実際イタリア、フランスに取材旅行にも出かけて、宗教画や教会などを巡ったり。
クリスチャンでは無いのですが、光をテーマに描いていると、自然と宗教画やステンドグラスなどに惹かれるのだと思いますし、人間の純粋な信仰心に興味があります。
例えば、「久遠」は人間の存在を感じる神秘的な空間を鏡を使って演出表現し、平面絵画である日本画でも奥行きや飽きない魅力が出せないかと考え描いた作品です。
日本画も洋画も好きだからこそ、拘り過ぎず、私なりの和と洋の融合を目指しています。
「久遠」M10
-和と洋の融合を目指した、山﨑先生なりの日本画。今後の作品も今からとても楽しみです!
では、作家として最も大事にしている心構えを教えてください。
挑戦する柔軟な心と変化し続ける勇気を持つこと。
-最後に今後の夢や目標を教えてください。
和と洋を融合した感覚の作品を制作し、時代の流れを取り入れ海外で発表したいです。
また本の表紙絵に起用していただけるようになりたいです。
-山崎先生、ありがとうございました!
個展は10日~19日まで開催いたします。是非ご高覧くださいませ。
「山﨑有美 日本画展」
5月10日(金)~ 5月19日(日)
会場:Gallery Seek
出品作家: 山﨑有美
作家来場日: 5月10日(金)・11日(土)17日(金)~19日(日) 各日13時~17時