古賀充インタビュー2021

7月9日より個展を開催する古賀充先生にお話しを伺いました!

■存在のフィルター

今回の個展は「存在のフィルター」をテーマにしています。

人はモノを知覚する際、常に最新の情報を得続けていると錯覚しています。同じ空間に存在する物質を知覚しているのですから同じ時間を共有している状態を他の違う状態と疑うことは少ないはずです。

しかし実は自分という存在が他の存在を知覚する際、とても微量な差なので感じられませんが双方同士には時間的な差異が生じているのです。
つまり人が今まさに知覚している目の前の対象はその対象の少し過去の情報ということになります。そして最新の情報はその対象自身にのみ知り得るのです。

例えばクラドニ図形というものがあります。薄い板の上に塩のような細かい粒子を置き、音の振動を加えることで自然と図形が浮き出るというものですが、この場合の音の最新の情報は当然ながら音源が持っています。図形はわずかな振動の違いで始めは円のようであったものがひし形のようなものといったように様々な形に変化していきます。
つまり、人が円のような形を知覚している時には音源からはすでにひし形を形成する振動が発せられていたことになります。

存在者(自身)は他の存在の常に過去の情報を、知覚することによって現在という状態に置き換え、あたかも同じ時間軸にその対象が存在しているように錯覚しています。

存在は他者から知覚した自身も含め、自身の最新の情報を何よりも自身が得るために何層ものフィルターに覆われているのです。

私は目の前の対象が持つ最新の情報がどういうものか知りたいと思っています。

■「存在のフィルター」作品としての表現
存在のフィルター(S3)
「存在のフィルター(眼の構造のメモ)S3
今回の作品で存在のフィルターの意味が最もわかりやすいのは「存在のフィルター(s3.眼の構造のメモ)」だと思います。このテープで貼られたメモの裏を私達は見ることができず何かがあるのか、それとも何もないのか、それさえもわかりません。モノを知覚する際、わたしたちはそのモノの存在自体について常にこの状況にあります。

■対作品「存在のフィルター」「記憶のフィルター」と単体「存在のフィルター」の表現方法の違い
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「存在のフィルター」SSM ※前作
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「記憶のフィルター」SSM ※前作

今回は言葉こそ存在のフィルターを使っていますが、内容としては「記憶のフィルター」と「存在のフィルター」を分けて考えていたものよりも、知覚から出力するまでの一連の流れをイメージしています。存在のフィルターをより濃密に表現したいと思ったとき、どうしても一度この過程を踏む必要かあると思いました。

■興味をモチーフに

モチーフは基本的にそのときモノとして興味があるものを選んでます。つまり描きたいものを描きたいときに描いています。そしてそのときのテーマを当てはめていきます。もしくはその逆もあります。

私の場合、興味は全ての対象にその可能性があります。

様々な事象の「そもそも」を掘り下げていくと、今まで気付かなかったその対象の魅力を発見していきます。

そういう意味では無興味だったことが興味に変わることだってありますし、興味がある対象について更に深い興味をもつこともあります。

■古賀充の考える「空間」とは

空間について、とりあえず一度形ある目標を数年前から掲げています。それは「空間とはすべてのそれ以外」ということです。私にとっての空間の概念はどのような表現の中においても変わることはありません。

今は現時点で「空間」の逆としている「存在」について問い続けています。存在のフィルター、記憶のフィルター、モノの正面、生命、輪郭線、は全て存在のための問の一部です。存在について考えるうちに、空間とはより遠く、深いものであると再認識しているところです。実のところ近くて、浅いのかもしれないとも感じるのでその距離感すらよくわからないです。

いつか存在について腑に落ちる答えが得られれば空間は単純に今までやってきたことの逆なのだと理解できます。私が問いたい空間の表現は目に見える私の作品の全く真逆なのだという解釈もできます。

■今後

基本的には今ある大きなテーマを細分化したり、具体化したり、平面の中で問い続けていきたいと思っています。


古賀先生ありがとうございました!
個展は7月9日(金)~18日(日)まで開催しております。
この機会に是非ご高覧くださいませ。

以前のインタビューはこちらから

◇2020年インタビュー
古賀充インタビュー2020 : Gallery Seek Official Blog (livedoor.jp)

「古賀充 個展 -存在のフィルター-」
7月9日(金)~7月18日(日)
会場:Gallery Seek
出品作家:古賀充

空間・空気・時間・距離など、人が視ることができないものを、鉛筆画によって表現する古賀充。今回の個展テーマは「存在のフィルター」です。私たちが知覚する全てのモノは何層ものフィルターで覆われています。このフィルターにより私たちはモノの過去の情報しか知覚出来なくなっています。対象とはそのようにして収集した過去の情報を元に最新の情報を予測して構築することで目の前に知覚を通して存在しているのです。目の前の対象が持つ最新の情報がどういうものかを知りたいという作家の探求心が生み出す作品たちを是非ご高覧くださいませ。

関連アーティスト

古賀充

古賀充

私の根底には常に同じテーマがあります。 それは空間・空気・時間・距離など、人が視ることができないもので、表現できないものを表現することです。モノを媒介にした現実的ではない表現ではなく、目とモノの間に確かに存在する無色透明を描き出すこと常に頭においています。