千葉史織インタビュー2021

4月29日より2人展を開催する千葉史織先生にお話しを伺いました!

 

制作のコンセプトを教えてください。

自分が自分の中にホゾンしているモノ・コト・感情、例えば時間であったり季節などずっとは続かない“一瞬の現象”を作品としてホゾンしたい、カタチにしたいと思っています。

瞬間を切り取るだけであれば写真でも表現できることなので、様々な瞬間を組み合わせて、一枚の作品に落とし込みながら、そのときだけの心地よい空間を作り上げています。

頭ではイメージで、はしっこまでピントのあっていないものを、誰よりもまず自分が実際に作ってしっかり観てみたい、そしてそれを観たひとがどう感じるのか観てみたいです。

 

今回の個展のテーマについて教えてください。

「蟲」を五月女佳織さんとの二人の一過性のテーマとして制作しました。ひとにはない姿、機能を変えていく変態。こどもの頃からその不思議さや機能美、その形に興味がありました。変態、雌雄型、擬態などひとにはないおもしろさと美しさに魅力を感じ制作しました。

制作過程を教えてください。

   木材等でパネル制作

円形や家の形のパネルに描いたり、作品の中に仕掛けを入れ込みたいので、絵の内容に合わせてパネルの形を自分で制作します。

パネルを制作することはパネルの側面まで描きこむのと似た感覚です。外側まで作品の空間が続いていくという意味合いで、パネルから制作するというのは自分の中では自然な流れです。

   紙貼り(パネルの形で貼り方も変わる)

   骨描き(墨か絵具かペン)

   色を乗せる(絵具)

背景のまばらな模様は海綿スポンジでポンポン叩きながら色付けしています。
Biotecture 骨描き
⑤ペンで細かい部分を描く
Biotecture 途中

   ⑤をと繰り返しで仕上げていく

Biotecture

 

新作について教えてください。
千葉史織円形45㎝開演
「開演」
幼虫・蛹を経て、蝶になります。開かれるその美しい翅は相手の目を欺くためでもあり、はたまた相手へのアピールでもあります。それはまるでサーカスの演者のように感じます。広がるその世界観はどこまでが演出なのか、魅せられているのはだれなのか、観ているか観られているか、さあ開演です。あなたはどちらでしょうか。ぜひ様々な視点からご覧ください。

千葉史織円形65㎝あはひ

「あはひ」(あわい)
ナニかとナニかの間(あはひ)というものは色々な見方でそれぞれのあたまの中に存在しています。虫には雌雄モザイク(ギナンドロモルフ)という左右半分がその虫のオス・メスの姿でくっきりわかれている姿を持つものがいます。見た目はくっきりわかれているのに雌雄どちらでもない、その存在はとても曖昧で美しいと思い作品にしました。

球体のモチーフは地上の植物や海の珊瑚などを描いています。同じ場所には存在しない生きものたちが一緒に描かれて、両方の美しい魅力が共存する不思議な空間もぜひ観ていただきたいです。

千葉史織円形45㎝ニテヒナル

「ニテヒナル」
ホバリングして花の蜜を吸う小さな鳥のハチドリ。同じようにホバリングして花の蜜を吸うオオスカシバという蛾をモチーフにしています。雰囲気が似ていますがオオスカシバはハチドリではなくハチの擬態だそうです。
見間違えることはないですが、ハチドリに似た植物としてグリーンフラワーバードというものもあります。

ハチドリとオオスカシバは一緒の環境にいるわけでもなく、違うものを真似ていたりするのになぜか似ているように見えます。ぜんぜん違うのに。じっくり観るのとは違う、瞬間に感じる、こんな偶然がまた美しいと思います。違う環境の生きものたちをビンの中で、自分の中でホゾンしました。

きかざる 

「きかざる」(着飾る・聞かざる)
気づいていない(聞こえてない)いつのまにか寄生された姿。幼虫から蛹、成虫へそれぞれの機能美を得ていく変態。どちらもワタシには美しく着飾っているように見えます。

Biotecture

「Biotecture」バイオテクチャー=植物を取り入れた建築設計法≫
Gall(ゴール)という虫や菌などの何らかの刺激により、寄生となる植物・組織が異常に増殖・肥大し生じるものがあります。それは美しいと感じるものもあるし、気味が悪いと感じるものもありますが、まさにアートの感覚があります。虫が作るアートと、ひとが作る接ぎ木というアート、ワタシの作品(アート)を通して不思議さ・おもしろさが伝わると嬉しいです。

今回は蟲がモチーフで、背景は全て金色で統一されていますが、他の作品では背景の色味が違っていたり、モチーフも様々なものが描きこまれていますよね。
背景の色、モチーフはどのようにして決められているのでしょうか?

作品の背景はつづいていく「空間」として描いています。自分の中で金色が主張の強い色だとは思っていないのでモチーフを活かす意味でも無意識に使うことが多いです。単純に日本画といえば金箔のイメージもあり、そこに対する憧れというか単純に好きなのだと思います。今回の作品の背景もほぼ金色ではありますがそれぞれの作品に合わせて違う色ものせています。
深海や宇宙などの深く広く続いていくというイメージが強いときには黒の背景のときももちろんあります。

とおめがね
「とおめがね」

作品の中で動きが必要だと感じるときは、人物のようなモチーフも描きますが、顔の部分はひとではない存在を描きます。例えばカメラが顔になっているひとであれば、“なにかを保存したいひと“であるなど、モチーフ自体が「どういうことを考えているのか」「どんなことをする・したいひとなのか」を表現するために、顔を何かに置き換えた人型のキャラクターを描くことがあります。このモチーフを入れ込むと自分が表現したいことが鑑賞者に伝わりやすいかなとは思います。

ミルトイウコト 部分 カメラ

「ミルトイウコト」作品一部

 

昔と現在で作品を描く上で変わったことはありますか?

以前水族館で働いていたことがあり、実際に魚たちを目の前でじっくり観る機会を得て、モチーフを自分の中のイメージだけではなくしっかり観察した上で描くようになりました。なぜそういう形・色なのか機能美も考え、今さらながら向き合い方が変わったように思います。外見だけの面白さだけではなく、視点を変えた組み合わせを考えるようになったかなと思います。
描きたいものは根本的には変わっておらず、今回テーマの虫、魚などの生きものや歯車やネジなど昔からよく描いているモチーフも多くあります。

MUSEUM 
MUSEUM

 

作家を志そうと思ったのはいつ頃ですか?きっかけとなる出来事がありましたら併せて教えてください。

幼児の頃は毎日絵を描き、画家になりたいと思っていましたが、成長するにつれ「仕事」という意味合いで向き合わなくなりただ好きで描いていました。大学卒業辺りまで自分の作品を発表している今の状況は想像していませんでした。卒業制作展で銀座の画廊に声をかけていただいたのが一番のきっかけですが、作家になるなんてまったく想像していない、なにもわからない不安な私を導いてくれた恩師のことばもありました。いろいろなひととの出会い・つながりに感謝しています。

影響を受けた作家・作品を教えてください。

大学を出て上京したくらいに、池田学さんの「興亡史」を生で初めて観たときは絵の前から動けなくなりました。近づいても離れても観え方がおもしろくて長い時間観ていたのを覚えています。こんな風に観ている誰かが夢中になる作品が制作できたらと思います。
もちろんほかにも浮世絵、ガウディ、ダリ、マグリット、アルチンボルト、ヒエロニムス・ボス、ビリービン、ブリューゲル、ディズニー、藤子・F・不二雄などたくさん影響を受けています。

浮世絵の雰囲気を取り入れることで、時間の流れを表現した作品もありました。作家それぞれの世界に触れることで得られるものはたくさんあると思います。
あまたとし部分富士
あまたとし」作品一部

 

作家として最も大事にしている心構えを教えてください。

自分が観たいものを描くこと。あたまの中のイメージだとピントが合っていないので、合わせて隅々まで観てみたいのでそれをあたまから取り出して描きます。
そして自分がまず楽しんで描くこと。自分がその作品をまず好きでないと観るひとに伝わらないと実感しています。

今回の出品作の中で一番見てほしいと思う作品を教えて下さい。

すべて観てほしいですが メインの「あはひ」はナニかとナニかの間、はっきりしているようであいまいな、小気味よく不思議だけど自然な空間を目指して描きました。時間が進むと境界線は変わっていきます。(時間による境界線の変化を表現するひとつの手段として、中央のギナンドロモルフは時計仕掛けになっています。)
「あはひ」のグラデーションの魅力が少しでも観るひとに伝われば幸いです。

あはひ 制作途中
※制作途中
千葉史織円形65㎝あはひ
※「あはひ」

 

今後の夢や目標を教えてください 。

描くことを辞めることはないので、またみなさんに観ていただく機会があるよう努力します。

千葉先生、ありがとうございました!

個展は本日4月29日(木)~5月9日(日)まで開催しております。

4月29日・5月1日・5月9日は千葉先生もご来場予定です!

この機会に是非ご高覧くださいませ。

「五月女佳織・千葉史織 二人展 -蟲HENTAI-」

4月29日(木)~5月9日(日)

会場:Gallery Seek
出品作家五月女佳織千葉史織

作家来場日:五月女佳織:4月29日(木)・5月8日(土) 各日13:00~17:00

      千葉史織:4月29日(木)・5月1日(土)・9日(日) 各日13:00~17:00

東京藝術大学保存修復を修了し伝統的な技法を用いながら自分らしい作品を制作する五月女佳織。自身の中にホゾンしているモノ・コト・感情そのときだけの空間を作品としてカタチにする千葉史織。今回は蟲を二人の一過性のテーマとして発表致します。蟲は陸上生物において八割を占めており、他の動物と比べると桁違いの多様性を誇っています。長い歳月を多種多様に生き延びてきた彼らの生態を知る上で生活に合わせて姿形を変えていく変態は欠かせないテーマであり、生命の神秘を感じさせます。蟲の造形美と生態に魅せられた五月女佳織と千葉史織は、蟲への興味をどのようにアートへと昇華していくのか。東北芸大出身の二名による「蟲-HENTAI-」を是非ご高覧くださいませ。

関連アーティスト

千葉史織

千葉史織

アートは描くひとも観るひとも自由だと考えます。 私の表現したい世界が、観てくれる誰かの世界と一致したなら嬉しいです。 私は創作という現実の中で、私の夢をずっと描いていきたいです。

五月女佳織

五月女佳織

私の理想の箱庭では、今を盛りと花々が艶やかに咲き誇っています。日本画ならではの顔料や箔のきらめきを活かし、伝統的な技法と現代的な感覚を織り交ぜ最上の美を表現します。 五月女佳織 HP