五月女佳織インタビュー2019

現在、個展開催中の五月女佳織(ソウトメカオリ)先生にお話を伺いました!



-花や蝶などをモチーフとされていますが、それらを描かれるようになったきっかけはありますか?

私は栃木の生まれなのですが、家に藤棚、牡丹30株、エンゼルトランペット、椿や梅や桜に水仙、柿や栗の木、スイカやかぼちゃ畑・・・たくさんの植物がある環境でした。
だからなのか自然と、小さいころから植物の絵を描くようになりました。
それらに集まってくる小さい生き物とも慣れ親しんでいました。


-植物のどんなところに魅力を感じますか?

植物は時にはエネルギー溢れるばかりにたくましく咲き誇り、時には繊細に儚く散ってしまう。
癒しであったり圧倒される存在だったりと1年を通して様々な表情を見せてくれます。
そんな一瞬一瞬を閉じ込めたい。
その表情は、自分を投影しているのかもしれません。
私の理想の箱庭では、今を盛りと花々が艶やかに咲き誇っています。


-今回の個展のサブタイトルも「時の庭」ですよね。
そこにはどんな意味を込められていますか?

花は四季によって色々な表情を魅せてくれますが、季節が終わると枯れてしまう。
柿やスイカなどの食物も収穫の時期が過ぎれば次の季節に向けて準備をします。
そんなところに子供ながらも切なさを感じていました。
自分の中に、昔から理想の「箱庭」というものが存在していました。
そこには時間は関係なく、自分の好きな花々が咲き誇っています。
私はそれを「箱庭」に閉じ込めて、見て楽しむ。
箱庭は、小さな、あまり深くない箱の中に木や人形のほか、橋や船などの景観を構成する様々な要素のミニチュアを配して、庭園や名勝など絵画的な光景を模擬的に造り、楽しむものとされてきました。
そんな感覚を、見た方にも感じて欲しいと思いながら制作しています。


-日本画ながらもどこか幻想的だったり、現代的な感じがするのは形式的な日本画の描き方に捉われてないからでしょうか。

こうだったらいいなという願望を込めたり、花々に自分を投影している部分があるのでそう映るのかもしれません。
技法は昔のものを使っていますが、構図やモチーフなんかはこだわりなく好きな様に描いています。

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「百花織」30号変形

例えば今回の出品作、「百花織」は様々な季節の花を取り入れています。
120×35cmと特殊なサイズなのですが、元々伝統的な日本の和室の長押には水墨山水などのこういった横長の絵が飾られていました。
そんなイメージでも飾って頂きたいなと思い描いた作品です。


-作家を志そうと思ったのはいつ頃ですか?

小学生ぐらいの時からです。
物心ついたときには絵を描いていきたいなと考えていました。


-日本画を選ばれた理由は?

高校生の時に予備校で日本画の体験を少しやったことがあって、岩絵の具を見た時、こんなに綺麗なものがあるんだと感動しました。
この美しさをそのままの形で生かしたい、絵にしたいと思ったことが今でも自分の中のベースにあります。
なので混色はあまりせず、天然の岩絵の具の色をその生かしています。


-技法の中でどこに一番こだわりを持っているか教えてください。

日本画の歴史や古い技法に興味があり、それならではの技法を使ったものが多いので見て頂きたいです。
支持体も絹本を使っています。
こちらは下図を転写→彩色している所。
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まだパネルに貼りこんでいない状況です。
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和紙は雲肌麻紙に厚塗りでこってりとした作品も描きますが、薄い雁皮紙に描く事が最近は多くなっています。


-絹と雁皮紙に描く際はどのように使い分けているのですか?

絹に描くときは、例えば牡丹の花弁の薄いベールのような表現やにじみ、ぼかしを使いたい時でしょうか。
雁皮紙はテッシュペーパーくらい薄いのですが、その分、「花見」F4のように裏から銀箔を貼って透かすことができます。
裏箔という技法です。

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五月女
「花見」F4

あと細かい線をひける所ですね。
絹は繊維があるので筆で描くときに引っ掛かりますが、雁皮紙はつるつるとしているのでなめらかに描けますし、木の枝やバッタの足などの細い線が引けます。
植物からできているので、そういった自然本来の魅力を引き出せる所も好きです。
ただ、紙自体が貴重になってきていて、職人さんの後継者も少ないそうです・・・。


-古い技法とはどのようなものですか?

今回の出品作、「花降る」P60の藤の輪郭の部分は「彫り塗り」という技法を使っています。
描いているのではなく下地の色を塗りつぶさずに生かしています。
12世紀の源氏物語絵巻などにもみられる技法ですが、伝統的彩色日本画の手本とされるものです。
とても細かく、気が遠くなりそうな作業ですがその分完成した時は喜びもひとしおです。
五月女佳織P60花降る額無
「花降る」P60
P60花降る額無
「花降る」P60 作品部分


-藤はよく描かれていますよね。

そうですね。藤は小さいころから家にあり、慣れ親しんでいたので・・。
華やかさと妖艶さがあるところが好きです。
幻想的な雰囲気の作品もあるのですがこちらは明るく、藤の花一つ一つにリズム感が出るよう意識しました。

五月女佳織8P幻想花(額無)
「幻想花」P8


-影響を受けた作家・作品を教えてください。

速水御舟、田中一村
田中一村は中学生の時に初めて展覧会で見ました。
その時は日本画という存在を知らなかったのですが、画面のエネルギッシュさや色使いに圧倒されました。
日本画は余白を生かした作品が多いですが、逆に埋め尽くすような大胆な構成は驚きますね
田中一村


-作家として最も大事にしている心構えを教えてください。

より感覚を研ぎ澄ましてたくさんのことを感じる力をつけ、それらを作品へ昇華させる技術を怠らないことです。


-先生にとって絵を描く事はどういった行為でしょうか。

描いていると様々な感情が芽生えます。
楽しいことばかりではもちろんないですが、そこも含め自分を成長させてくれる存在です


-今後の夢や目標を教えてください

日本画の特性上どうしても工程が多くて、計画通りに進めていかないと絵が仕上がっていかないのですが、それだけだと面白味に欠けるなと感じる時があります。
自分が意図しない出たとこ勝負のような大胆な表現を取り入れていきたいです。
すっごく繊細で細部の見ごたえがあるけれども、引いてみると迫力や強いエネルギーを感じような作品が理想です。
また、六曲屏風などの大作から小品までを展示し、それを継続できるような作家になりたいです。


-最後に、作品を観に来て下さる皆様に一言お願いいたします。

多くの方に観て頂いて、様々な感想をお聞きしたいです。


五月女先生、ありがとうございました!
個展は1027()まで開催しております。
是非ご高覧下さいませ。