3月6日㈮より、個展が始まります、中上誠章(ナカガミセイショウ)先生にお話をお聞きしました!
-中上先生は、Gallery Seekでは初めての個展となりますね。
今回のサブタイトル「-光の色 風の香り-」の由来を聞かせてください。
視覚に訴える仕事ですから、言葉で表せないニュアンスがあることが大事だと
思っています。
色でデッサンしているので、画面のすべてが色彩です。
肌色だけでも、無限の変化があり、そのどれにも名前がついているわけではあり
ません。
風は感じるものですが、それを形と色で表現します。
画面からは油絵の匂いしかしませんが、題名同様、想像力に訴えたいと思い、つけました。
-制作のコンセプトを教えてください。
私の絵の特徴、良さは、「生命感と光の諧調の豊かさ」にあると思います。
コンセプトは、それを活かす事に集中する事です。
人間であっても、猫であっても、たとえアトリエなどの室内であっても、その画面の季節が何なのか。
女性なら、年齢の違いの良さが伝わるように。
猫なら、家猫と野良の違いが、一瞬で感じられるように。
「眩」P15
-昔から猫や人物を描いていたのでしょうか?
人物は、中学生のころから、色鉛筆で写真を観ながらスケッチしていました。
小学校4年の頃には、教えられなくても遠近法を理解していましたし、対象と絵の間のずれに、すぐに気づく力がありました。
猫を描いたのは、プロになってからの事です。
「招」S3
-猫や人物をモチーフとして選ぶ事が多いのは、理想を投影しやすいと以前お聞きしましたが、中上先生にとっての理想とは何でしょうか?
文章にできれば、絵を描く必要がないと思っています。
様式や構図に理想を求めているのではなく、好きな作家に近づく事でもありません。
自分が選んだモデルさんを、画面に再構築する際、そこに求めるのは、形、色の正確さと、自分の感覚にしっくりくるニュアンスがあるかです。
美の理想にモデルの形を近づけるのではなく、その人の美しさを拾い上げていくことで、自分の理想に気づかされる気がします。
-作品のどこを一番見て欲しいか教えてください。
生命感に支えられた、繊細さです。
髪の毛、肌を繊細に描写しますが、その下の骨格と筋肉の存在を感じさせること。
同じ命の中に内在する弱いものと強いものを、描写によって感じさせる。
「珠」F3
ただ細かい、肌をきれいに塗り分けるだけでは、ろう人形や陶器みたいな仕上がりに
なります。
実際の人間は、とても繊細でもろいものです。
抜けるような白い肌でも、触れば温かみがあり、ざらつきがあり、息をしています。
そのような、当たり前のことを再確認できて、なおかつ美があるように表現しているつもりです。
-作家を志そうと思ったのはいつ頃ですか?
美大に2浪で入ってから、ずっと思い悩んでいました。
才能が無かったらどうしよう、無いのなら、作家になる意味が無いと。
20代後半の頃には、殆ど諦めていました。
27歳で、初めて自分らしく描けるようなきっかけがあり、光を感じました。
それからも30代後半まで、ずっと基礎的なデッサンを続けていました。
先輩からの紹介で、プロの作家になるきっかけを得ました。
どんなモチーフでも描けるのは、まじめにデッサンを続けていたおかげです。
-デッサンは現在でも続けてるのですか?
毎回、油絵を描くときは、下絵なしで進めています。
色でデッサンしていますので、白黒の明暗しか無い素描ではありませんね。
-初めて自分らしく描けるようなきっかけがあったとのことですが、どのようなことがきっかけだったのでしょうか。
私は、生まれつき左利きだったのを、右利きに矯正された過去があります。
美大受験の際も、卒業後も右手で描いていました。
自分の絵がつまらなく、死んだようにしか見えないことに絶望し、筆を折ることばかり考えていました。
でも27歳のある日、クレーの「文字で汚れた右手では描かない」という言葉に出会い、生まれて初めて左手で描いてみました。
最初は手が震え、汗だくになりましたが、下手なりに味のあるニュアンスが画面にあり、光明を感じました。
3か月たったころには、相当上達し、自分の絵に生命感が出てきました。
1年たったころには、右手で描いても、同じことが画面に表れることに気づきました。
利き手の問題ではなく、脳の中が活性化して、メンタル的に強くなったのだと思います。
以来、両手で描いていますが、基本的には難しい描写は右手が担当です。
-油絵を選んだ理由はなんでしょうか?
明るい部分を残しながら進める水彩ではなく、暗くした中から光を
加えていける油絵が性に合っています。
-技法の中でどこに一番こだわりを持っているか教えてください。
不器用なので、小細工はしません。
正確な色、形にこだわります。
そうすれば、結果的に、思っていた以上の効果が画面に表れます。
大切にしているのは、正確さに裏打ちされた「ニュアンス」です。
正しいだけでは、美には届かないからです。
-制作手順を教えてください。
いたってシンプルです。
キャンバスの柔らかさが嫌いなので、パネルにジェッソの地塗り。
トレース無し、下絵なしに、一気に進めます。
ブラウンオーカーで大まかな線を入れながら、あるべき構図の予想をたてます。
余白とのバランス、目線の方向を考慮に入れながら、進めます。
他人から見れば一番つまらない状態ですが、この時点で方向性が決まってしまうので、
頭の中はフル回転です。
ヴァンダイクブラウン、ライトレッド、ホワイトも加えて、モデリングに入ります。
完成図と比べれば、目や眉、唇の位置はずれています。
無駄を省くために、写真やデッサンからトレースをする人がいるようですが、それでは
「生きた」表現は不可能です。
迷いや選択の中から、より良い結果が生まれ、自分でも気づかなかった魅力が引き出せ
るのです。
目と鼻の関係、形の大きさを、一番最初に決めます。
全体からすると小さいものですが、ここが決まれば、そのあとのすべての予測が
立てられます。
手の描写
顔は、ある程度の型を理解していれば、案外描きやすいものです。
この作品の中では影に入っていますが、手の描写にはいつも神経をはらいます。
白のバリエーション
白目、肌のハイライト、壁の色、衣装、それぞれのパートを塗りながら、全体の
光の当たり方にも留意します。
顔を中心に、パレットの色を増やして、密度を高めます。
それと同時に、他の場所も明るさを高めていきます。
この段階で、大体の形が決定しました。
正確さにこだわります。
類型的な美を追求すると、いずれはマンネリ化します。
同じ人でも、角度、光の当たり方、表情によって、さまざまに変化します。
その一回きりの変化、ニュアンスに、子供のように驚き、感動し、苦しみ続ける。
但し、数値的な正確さには重きを置きません。
自分が感じる美が無いと、気に入らないのです。
正確に描いても、それだけでは美しくはならないものです。
猫では、家猫と野良ネコの違い、モデルさんでいえば、それぞれの人の肌の色合いの
違い。
どんなときにも鋭敏にとらえ、描ききる。
個展のような場では、その違いが明快になるでしょう。
精度を上げていきます。
この時点で、題名を考え、インスピレーションで決めます。
題名に関しては、説明的なものは避け、観る方の想像力に訴えるものを選ぶように
しています。
完成!
この作品では、西日の揺らめく光、神秘的な感じのする瞳から、「トレモロ」が浮かびました。
題名に負けないよう、細密さではなく、繊細さにこだわって。
モデルさんも、完成した作品を観て、とても喜んでいただけました。
-モデルさんはどのように決めてらっしゃるのですか?
モデルさんは常に募集していますが、求めているものは自然なふるまいと表情です。
写真と違って長時間見つめる媒体ですから、奇をてらわない自然さを求めます。
中上先生、ありがとうございました!
個展は3月6日㈮〜15日㈰まで開催いたします。
先生は初日6日㈮、7日㈯と来場されます。
この機会に是非ご高覧くださいませ♪
「中上誠章 油彩画展-光の色 風の香り-」
3月6日(金)-3月15日(日)
開場:Gallery Seek
出品作家:中上誠章
作家来場日:3月6日(金)-7日(土) 各日13:00-17:00
中上誠章は1961年生まれ、関西を中心に活躍する油彩画家です。写実画を、絵の姿をした「生の証」と捉え、モデルの息遣い、作品への加筆をかけがえのない一瞬として制作しています。自分の理想を投影しているという猫や女性像は、写実的でありながらも、柔らかなタッチで優しさを感じさせてくれます。Gallery Seekでは初めての個展となります、新作10余点を是非ご高覧くださいませ。