中上誠章インタビュー

3月6日㈮より、個展が始まります、中上誠章(ナカガミセイショウ)先生にお話をお聞きしました!

中上誠章2017

-中上先生は、Gallery Seekでは初めての個展となりますね。
今回のサブタイトル「-光の色 風の香り-」の由来を聞かせてください。
視覚に訴える仕事ですから、言葉で表せないニュアンスがあることが大事だと
思っています。
色でデッサンしているので、画面のすべてが色彩です。
肌色だけでも、無限の変化があり、そのどれにも名前がついているわけではあり
ません。
風は感じるものですが、それを形と色で表現します。
画面からは油絵の匂いしかしませんが、題名同様、想像力に訴えたいと思い、つけました。

-制作のコンセプトを教えてください。
私の絵の特徴、良さは、「生命感と光の諧調の豊かさ」にあると思います。
コンセプトは、それを活かす事に集中する事です。
人間であっても、猫であっても、たとえアトリエなどの室内であっても、その画面の季節が何なのか。
女性なら、年齢の違いの良さが伝わるように。
猫なら、家猫と野良の違いが、一瞬で感じられるように。

眩P15
「眩」P15

-昔から猫や人物を描いていたのでしょうか?
人物は、中学生のころから、色鉛筆で写真を観ながらスケッチしていました。 
小学校4年の頃には、教えられなくても遠近法を理解していましたし、対象と絵の間のずれに、すぐに気づく力がありました。 
猫を描いたのは、プロになってからの事です。


中上誠章3S招
「招」S3

-猫や人物をモチーフとして選ぶ事が多いのは、理想を投影しやすいと以前お聞きしましたが、中上先生にとっての理想とは何でしょうか?
文章にできれば、絵を描く必要がないと思っています。
様式や構図に理想を求めているのではなく、好きな作家に近づく事でもありません。 
自分が選んだモデルさんを、画面に再構築する際、そこに求めるのは、形、色の正確さと、自分の感覚にしっくりくるニュアンスがあるかです。 
美の理想にモデルの形を近づけるのではなく、その人の美しさを拾い上げていくことで、自分の理想に気づかされる気がします。 

-作品のどこを一番見て欲しいか教えてください。
生命感に支えられた、繊細さです。
髪の毛、肌を繊細に描写しますが、その下の骨格と筋肉の存在を感じさせること。
同じ命の中に内在する弱いものと強いものを、描写によって感じさせる。
珠F3
「珠」F3

ただ細かい、肌をきれいに塗り分けるだけでは、ろう人形や陶器みたいな仕上がりに
なります。
実際の人間は、とても繊細でもろいものです。
抜けるような白い肌でも、触れば温かみがあり、ざらつきがあり、息をしています。
そのような、当たり前のことを再確認できて、なおかつ美があるように表現しているつもりです。

-作家を志そうと思ったのはいつ頃ですか?
美大に2浪で入ってから、ずっと思い悩んでいました。
才能が無かったらどうしよう、無いのなら、作家になる意味が無いと。
20代後半の頃には、殆ど諦めていました。
27歳で、初めて自分らしく描けるようなきっかけがあり、光を感じました。
それからも30代後半まで、ずっと基礎的なデッサンを続けていました。
先輩からの紹介で、プロの作家になるきっかけを得ました。
どんなモチーフでも描けるのは、まじめにデッサンを続けていたおかげです。

-デッサンは現在でも続けてるのですか?
毎回、油絵を描くときは、下絵なしで進めています。 
色でデッサンしていますので、白黒の明暗しか無い素描ではありませんね。 

-初めて自分らしく描けるようなきっかけがあったとのことですが、どのようなことがきっかけだったのでしょうか。
私は、生まれつき左利きだったのを、右利きに矯正された過去があります。
美大受験の際も、卒業後も右手で描いていました。 

自分の絵がつまらなく、死んだようにしか見えないことに絶望し、筆を折ることばかり考えていました。 
でも27歳のある日、クレーの「文字で汚れた右手では描かない」という言葉に出会い、生まれて初めて左手で描いてみました。 
最初は手が震え、汗だくになりましたが、下手なりに味のあるニュアンスが画面にあり、光明を感じました。 
3か月たったころには、相当上達し、自分の絵に生命感が出てきました。 
1年たったころには、右手で描いても、同じことが画面に表れることに気づきました。 
利き手の問題ではなく、脳の中が活性化して、メンタル的に強くなったのだと思います。 
以来、両手で描いていますが、基本的には難しい描写は右手が担当です。 

-油絵を選んだ理由はなんでしょうか?
明るい部分を残しながら進める水彩ではなく、暗くした中から光を
加えていける油絵が性に合っています。

-技法の中でどこに一番こだわりを持っているか教えてください。
不器用なので、小細工はしません。
正確な色、形にこだわります。
そうすれば、結果的に、思っていた以上の効果が画面に表れます。
大切にしているのは、正確さに裏打ちされた「ニュアンス」です。
正しいだけでは、美には届かないからです。

-制作手順を教えてください。
いたってシンプルです。
キャンバスの柔らかさが嫌いなので、パネルにジェッソの地塗り。
トレース無し、下絵なしに、一気に進めます。
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ブラウンオーカーで大まかな線を入れながら、あるべき構図の予想をたてます。
余白とのバランス、目線の方向を考慮に入れながら、進めます。
他人から見れば一番つまらない状態ですが、この時点で方向性が決まってしまうので、
頭の中はフル回転です。
 
Screenshot 2020-02-09 at 17.00.59

ヴァンダイクブラウン、ライトレッド、ホワイトも加えて、モデリングに入ります。
完成図と比べれば、目や眉、唇の位置はずれています。
無駄を省くために、写真やデッサンからトレースをする人がいるようですが、それでは
「生きた」表現は不可能です。
迷いや選択の中から、より良い結果が生まれ、自分でも気づかなかった魅力が引き出せ
るのです。

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目と鼻の関係、形の大きさを、一番最初に決めます。
全体からすると小さいものですが、ここが決まれば、そのあとのすべての予測が
立てられます。
Screenshot 2020-02-09 at 17.04.00

手の描写
顔は、ある程度の型を理解していれば、案外描きやすいものです。
この作品の中では影に入っていますが、手の描写にはいつも神経をはらいます。
Screenshot 2020-02-09 at 17.04.13

白のバリエーション
白目、肌のハイライト、壁の色、衣装、それぞれのパートを塗りながら、全体の
光の当たり方にも留意します。
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顔を中心に、パレットの色を増やして、密度を高めます。
それと同時に、他の場所も明るさを高めていきます。
Screenshot 2020-02-09 at 17.04.50
この段階で、大体の形が決定しました。

正確さにこだわります。
類型的な美を追求すると、いずれはマンネリ化します。
同じ人でも、角度、光の当たり方、表情によって、さまざまに変化します。
その一回きりの変化、ニュアンスに、子供のように驚き、感動し、苦しみ続ける。

但し、数値的な正確さには重きを置きません。
自分が感じる美が無いと、気に入らないのです。

正確に描いても、それだけでは美しくはならないものです。
猫では、家猫と野良ネコの違い、モデルさんでいえば、それぞれの人の肌の色合いの
違い。
どんなときにも鋭敏にとらえ、描ききる。
個展のような場では、その違いが明快になるでしょう。
Screenshot 2020-02-09 at 17.06.33
精度を上げていきます。
この時点で、題名を考え、インスピレーションで決めます。
題名に関しては、説明的なものは避け、観る方の想像力に訴えるものを選ぶように
しています。
F4トレモロ
完成!

この作品では、西日の揺らめく光、神秘的な感じのする瞳から、「トレモロ」が浮かびました。
題名に負けないよう、細密さではなく、繊細さにこだわって。
モデルさんも、完成した作品を観て、とても喜んでいただけました。

-モデルさんはどのように決めてらっしゃるのですか?
モデルさんは常に募集していますが、求めているものは自然なふるまいと表情です。
写真と違って長時間見つめる媒体ですから、奇をてらわない自然さを求めます。

中上先生、ありがとうございました!
個展は3月6日㈮〜15日㈰まで開催いたします。
先生は初日6日㈮、7日㈯と来場されます。
この機会に是非ご高覧くださいませ♪

「中上誠章 油彩画展-光の色 風の香り-」
3月6日(金)-3月15日(日)
開場:Gallery Seek
出品作家:中上誠章
作家来場日:3月6日(金)-7日(土) 各日13:00-17:00

中上誠章は1961年生まれ、関西を中心に活躍する油彩画家です。写実画を、絵の姿をした「生の証」と捉え、モデルの息遣い、作品への加筆をかけがえのない一瞬として制作しています。自分の理想を投影しているという猫や女性像は、写実的でありながらも、柔らかなタッチで優しさを感じさせてくれます。Gallery Seekでは初めての個展となります、新作10余点を是非ご高覧くださいませ。

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中上誠章

中上誠章

生命感と光の諧調の豊かさを持ち味として、人物や猫をモチーフに描く中上誠章(1961年生まれ)。その画面に捉えた季節が何なのか。女性なら、年齢の違いの良さが伝わるように。猫なら、家猫と野良猫の違いが、一瞬で感じられるように。画面の全てを色彩で捉えることにより、実際には油絵の匂いしかしないが、鑑賞者の想像力に訴えかけ、光の色や風の香りまで表現します。   生まれつき左利きだった中上誠章は、幼少時代に右利きに矯正され、20代後半までは右手で作品を描いていました。そうして描きあげられた作品に魅力を感じられず、筆を折ることばかり考えていましたが、クレーの「文字で汚れた右手では描かない」という言葉に出会い、生まれて初めて左手で描いてみたところ、味のあるニュアンスが画面に加わり、作品に生命感が生まれる様になりました。そこからは基礎的なデッサンを重ね、右手でも同様のニュアンスが画面に加えられる様になり、現在は両手で描き続けております。   構図や様式美への追求や、好きな作家に近づきたいというわけではなく、形や色の正確さに自らの感覚によるニュアンスを加え、モデルの美しさを拾い上げていく。下絵なしに描き始めることで、迷いや選択の中から自らも気づかなかった魅力を引き出す、生きた表現。それにより、正しさだけでは届かない、ニュアンスによる美へ近づいていきます。そうした積み重ねにより、ただ塗り分けるだけでは到達できない、強い生命感に支えられながら内在する、繊細さを備えたある種の脆さまでも描き出します。抜けるような白い肌でも、触れば温かみがあり、ざらつきがあり、息をしている。そんな当たり前のことを再確認しながら、そこに存在する“美”を描く。自らを不器用と語り、小細工もなく、正確な色や形にこだわりぬき得たニュアンスで到達した“美”へのアプローチ。流行のリアリズムとは異なる写実絵画を追求しています。     中上誠章 HP http://www7b.biglobe.ne.jp/~seisho/