現在、個展開催中の塩月悠先生にお話を伺いました!
–約2年ぶりの個展となりますが作品制作をする中で心境の変化などありましたか?
勘違いな気もしますが、書や水墨画といった東洋の文化、それからもの派といったものに表現が近づいているような気がしています。
–軸装の作品もありますね。
はい。
これによって抽象の風景化をより意図的に示しています。
軸装することでより「インテリアのような絵」になっているかもしれません。
「land abstract scape」442×155mm
–「crystal thought」や「decolorization」などとはまた違ったシリーズでしょうか。
今回新しく制作したシリーズは、「land abstract scape」です。
「land abstract scape」は「land scape(風景)」と「abstract(抽象)」を合わせた造語です。
抽象の風景化/風景の抽象化といったところでしょうか。
もともと抽象画にはそのような要素や試みがあると思うのでそんなに新しい試みではありませんが、私自身の表現の一要素として必要なシリーズではないかと思っています。
展示空間に必要な景色、あるいはその場の空気・雰囲気のような目に見えない要素を可視化したような作品で、他のシリーズの作品と並置したり併せて鑑賞することでお互いに影響や変化をもたらすような、「インテリア」のような「パレルゴン」のような作品です。
エリック・サティの「家具の音楽」のようなものを目指しているのかもしれません。
「空間に溶け込む絵画」、「見てもらわなくても良い絵画」のような…。
「land abstract scape」320×520㎜
「land abstract scape」F10
-こちらのシリーズは以前から考えられてたのですか?
絵具のシミや垂れ、一本の線や色面、点を眺めていると、自分の記憶や経験と相まって、ふとした瞬間、風景が立現れることがあると思います。
そんな風景と抽象の間のようなものを追求してみたいと思い制作しています。
描きながら考えたり、続けていく中でこうなんじゃないかと思いついたりするので、今のところはっきりとしたコンセプトはありませんが、自分なりの風景画を制作したいという動機が基になっています。
–どのように描かれているのですか?
油彩とアクリルで描いています。
何色にするかやこの辺に絵の具を置くとか、そういった絵を完成させるための最低限のことを決めた後は、キャンバスを傾けたり放置して、絵の具の性質や重力に任せます。
良いか悪いかは自分の判断ですが、ほぼ一発勝負でやり直しがききません。
色味も影響していますが、結果的に書や水墨画のような作品になっています。
そんなわけで、『land abstract scape』シリーズは、ほとんど自分のイメージ、表現(作為)を込めていません。
–今回出品頂いている「decolorizatioh-blow」F8は書籍の装画を担当されたとか。
作品あらすじ
「愛した美しい継母は、とてつもない悪女だった。
世の中にあふれている「不格好な愛」にどう向き合えばいいのかを、問い直す傑作長編。
継母との秘められた関係。
罪から逃れ出た青年は、新たな人生を求め、ガラス工芸の道に飛び込む。
心から信じた者の裏切り、繰り返される過ち。
千四百度の炎に煽られながら彼が探し続けたものとは――。」
装画のお仕事は何回かさせて頂いていますがありがたいことです。
こちらの本は小説の方を読ませて頂き、浮かんだイメージを形にしました。
主人公や登場人物の抱えている様々なもの(愛)が、出来事や情景描写、ガラス等のイメージとの絶妙な距離感で明らかになっていくとても素晴らしい作品だと思いました。
特に私自身描いたり作ったりしていることもあり、ガラス工房や制作の描写、それらを通した主人公の機微に、感じるものがありました。
読後のイメージは「深い海の青」でしたので、紙を藍染し、描写していきました。
そして、私の中で「blow」という言葉が印象に残りましたので、blowによって生み出される「泡」でそれを表現しているつもりです。
泡からイメージされる水(海)、息(空気)、儚さと小説のイメージが重なればと思いました。
こちらは去年の8月頃、東京美術さんより出版された「寺山修司 時をめぐる幻想」。
この絵はもう売れてしまったのですが、寺山修司さんのお話からイメージし描かせて頂きました。
様々な作家さんがそれぞれの物語をイメージして描いてますので見応えがあります。
–今後新たに挑戦したいことはありますか?
人物、風景ときたので次は静物でしょうか。
–最後に、今回の個展をご覧下さる皆様に一言お願い致します。
私が目指したいものはやはり、見えているものと見えないものの「間」です。
パウル・クレーの言葉にもあるように、絵画は幻想そのものであり、それが絵画として「ある」という点でリアルでもあります。
現実と幻想のメタファーとしての絵画。
私自身、絵を描く行為を神話や天使に例えていますが、それは絵画の可能性、描くことの意味を探求することを意味します。
そんな「間」に自己の表現があればと思っています。
そのことが展示を通して少しでも感じていただけたら幸いです。
–塩月先生、ありがとうございました!
今後の作品も楽しみです。
個展は9月15日(日)まで開催しております。
14日(土)は先生も来場予定です!
是非ご高覧くださいませ。
過去のインタビューはこちら↓
こちらも是非ご一読くださいませ。
http://blog.livedoor.jp/soratobu_penguin/archives/8935277.html