原田武「一筋」——蜘蛛が垂らす一本の糸に宿る、静けさと気配
銀、銅、真鍮、ステンレス——四種の金属が交差する場所に、掌ほどの宇宙が生まれた。
原田武の新作「一筋」は、蜘蛛と一輪挿しを組み合わせた高さ220mmの金属造形作品だ。タイトルが指すのは、蜘蛛が垂らす一本の糸。空間に張り詰める緊張感と静けさを、そのまま言葉に置き換えたかのような名前をこの作品は持っている。
原田は言う。「幼少期にはただただ夢中に観察し、身近にある小さい世界を覗き見していました。大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになればと思っています」——蜘蛛は、まさにその象徴だ。日常の片隅に静かに存在しながら、多くの人が目を留めることなく通り過ぎてしまう生き物。しかし原田の手を経ることで、その蜘蛛は永遠の一瞬へと変貌する。
特筆すべきは、この作品が塗料を一切使わないという点だ。銀・銅・真鍮・ステンレスそれぞれの地色と、硫化カリウムによる化学反応などが生み出す色彩だけで、蜘蛛の体の質感、糸の緊張感、一輪挿しの存在感が描き分けられている。「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」——この作品に存在するすべての色は、金属そのものが持つ力によって生まれている。
「一筋」は一輪挿しとしての機能も備えている。花を挿したとき、生きた植物と金属の蜘蛛が同じ空間に並ぶ瞬間——有機と無機の境界が揺らぎ、鑑賞者は不思議な気配のなかに引き込まれる。「自分の作品が見た人が共感していただくほどで成立し完成する作品だと思っています」という言葉通り、作品と鑑賞者との対話によって初めて完成するのだ。
2026年7月3日(金)から7月11日(土)まで、Gallery Seek(カレッタ汐留B1F)にて原田武 個展「断片の景色」が開催中。「朽ち落ちたタイルや小さな生き物。日常に潜む断片を手がかりに、金属の中へ時間の記憶を刻み込む」——12点の作品が、鑑賞者との対話を待っている。
【開催概要】
原田武 個展「断片の景色」
会期:2026年7月3日(金)〜7月11日(土)
時間:11:00〜18:00(最終日17:00閉場)
在廊:7月3日・4日・5日 13:00〜17:00
会場:Gallery Seek / 東京都港区東新橋1-8-2 カレッタ汐留B1F
▶ 作品詳細・お問い合わせ:https://art-scenes.net/ja/artworks/56169?gallery_id=9
▶ 個展詳細:https://art-scenes.net/ja/shows/1640
▶ Gallery Seek:https://galleryseek.jp/