高津ゆい「海の城へ – 浦島太郎 -」個展「ものがたり -Fables-」Gallery Seek

2026.06.25

高津ゆい「海の城へ - 浦島太郎 -」個展「ものがたり -Fables-」Gallery Seek

まだ着かない海の底で、物語は最も饒舌になる

浦島太郎の物語を思い返すとき、多くの人は竜宮城の宴か、あるいは玉手箱を開けた瞬間を真っ先に想起するだろう。けれど高津ゆいが筆を向けたのは、そのどちらでもない。亀の背に乗り、水面が遠ざかり、光が薄れていく——まだどこにも着いていない、海中の途上だけを描いた。

「海の城へ - 浦島太郎 -」。アクリルガッシュ、木パネルに水彩紙。H27.3 × W41.0 cm(P6)。¥132,000(税込)、2026年制作。

水彩紙の繊維にアクリルガッシュが沈み込み、青は幾つもの層を成して深度そのものとして立ち上がる。画面の手前と奥で水圧が違うような錯覚。ウミガメの輪郭は水の揺らぎでわずかに歪み、その先に浮かぶのは宴の実像ではなく、気配だけが色彩の滲みとして漂う予兆だ。まだ見えない。まだ聞こえない。けれど何かが始まろうとしている——その境界の体温が、画面全体を満たしている。

「向かう途中」にだけ存在する感覚は、到着した瞬間に消え、引き返せば二度と思い出せない。高津ゆいはその儚い一瞬を画面に閉じ込めた。既知の結末を知りながらも胸が鳴るのは、私たちもまた、何かへ向かう途上にいるからかもしれない。

本作は、個展「ものがたり -Fables-」にて展示。2026年6月19日(金)〜6月27日(土)、Gallery Seek(カレッタ汐留B1F)。誰もが知る物語の、誰も見たことのない風景が、そこに広がっている。

▶ 作品詳細・お問い合わせ:https://art-scenes.net/ja/artworks/56079

▶ Gallery Seek:https://galleryseek.jp/

---