白菊の掛軸に、時を超えた鳥が棲みつく——志水堅二「菊に舞利鳥図」
白菊の掛軸に棲みついた、時を超える鳥
一幅の花鳥掛軸がある。白菊が咲き誇り、たらし込みの技法で墨が滲んだ葉が画面を覆い、鳥が枝に止まっている。作者の名は伝わっていない。おそらく百年以上の歳月を経た古画である。
志水堅二はこの掛軸を前に、ひとつの決断をする。もともと描かれていた鳥を消し、自身の分身であるブリドリーを描き入れること。「ブリキの鳥」と「人形(ドール)」を掛け合わせたこのキャラクターは、志水にとって時間そのものの象徴だ。飛ぶことができないゼンマイ仕掛けの鳥が、外見に錆を帯びながらも懸命に跳び続ける——その健気さに、作家は自らの制作の本質を重ねている。
「菊に舞利鳥図」H1840×W550mm。技法は古画(花鳥掛軸)に加筆。青、桃、黄、緑、紫、赤の六色のブリドリーが、古画のなかに着地する。白菊の花弁は過去の画人の筆のまま。葉のたらし込みの滲みもそのまま。変わったのは鳥だけだ。にもかかわらず、ブリドリーはまるで最初からそこにいたかのように画面に溶け込んでいる。
この違和感のなさこそが、本作の核心だろう。「古典と現代の融合」という言葉は美術の文脈で頻繁に使われるが、ここではそれが比喩ではなく物理的事実として成立している。過去の画人の顔料と、志水の絵具が、同じ絹あるいは紙の上で触れ合っている。修復ではない。引用でもない。時間を隔てた二人の画人による、静かな共作である。
数百年を吸い込んだ画面の上で、錆びたブリキの鳥が跳ねている。その光景は、絵画とは保存されるものではなく、生き続けるものであることを静かに告げている。
▶ 作品詳細・お問い合わせ:https://art-scenes.net/ja/artworks/56287?gallery_id=9
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