北斎の波に、ブリキの鳥が跳ぶ——志水堅二「冨嶽舞利鳥図浪之裏」
北斎の波に、ブリキの鳥が跳ぶ——志水堅二「冨嶽舞利鳥図浪之裏」
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」——藍と白だけで大気の重さまで版に刻んだこの図像を、おそらく見たことがない人のほうが少ない。志水堅二はその構図を正面から受け止め、砕ける波頭の只中に自身のキャラクター・Bridollyを一羽、送り込んだ。
浮世絵木版画という形式が、この作品の意味を決定づけている。版木に彫られ、藍の顔料を含んだ刷毛で色を置かれ、バレンの圧力で和紙に転写される——北斎の時代の職人たちが辿ったのと地続きの工程を経て、Bridollyはこの世に現れた。デジタル上の引用やオマージュとは異なる、素材と身体を介した接続がここにはある。
Bridollyはブリキの鳥だ。ゼンマイ仕掛けの身体にサビを纏い、翼を持ちながら飛べない。それでも跳ぶ。志水がこのキャラクターに込めているのは「時間の象徴」という思想であり、プラスチックにはない、朽ちてやがて土に還る素材の不完全さが、かえって生の手触りを宿す。
藍の濃淡が幾層にも摺り重ねられた波の弧と、対角に座る富士の三角形。その緊張のただ中で跳ねる小さな意志——200年前の構図に新たな時間が挿し込まれた一枚をご覧ください。
エディション A.P./100、H264×W386×D1mm。
▶ 作品詳細・お問い合わせ:https://art-scenes.net/ja/artworks/54689
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