作品について
夜の水面に、街の灯が縦の帯となって映り込む。銀箔の冷たい光を軸に、左にピンク、右にターコイズの色帯が落ち、黒い水のうねりに合わせて千々に砕けている。910mm四方の正方形いっぱいに水面だけが広がり、岸も空も描かれない。 【作品について】 菅かおるが一貫して主題としてきた「水」の、都市の夜における姿である。光源そのものは画面の外にあり、映り込みだけがその存在を告げる。上部では色の帯が比較的まとまって垂れ、下方へ来るほど水の波にほどけて横へ散っていく。この縦から横への解体が、見る者の視線を手前へ引き込む。 【モチーフについて】 菅は水を「実体のないもの」であり「光の強さによって捉えどころなく変幻自在に輝く」ものとして捉え、日本画ならではの箔や絵具の反射を用いて独自の「水の文様」を模索し続けている。大学3年の折、実家の庭の金魚鉢を真上から眺めた体験が、水を主題とする原点となった。本作の真俯瞰に近い視点にも、その原体験が通じている。 【素材・技法について】 雲肌麻紙を基底材とし、天然岩絵具と箔を用いる。「日本画絵の具の色の美しさを損なわず最大限に活かすことです。天然岩絵具を出来るだけそのまま使うようにしていて、混色は殆どしません」と語るとおり、蛍光的に見えるピンクやターコイズも混色ではなく絵具そのものの色である。銀箔は西洋の遠近法に代わって光の反射を担い、「箔で水の反射を表現できる面白さ」を引き受けている。 【見どころ】 箔の面が光の角度によって表情を変えるため、正面から見たときと斜めから見たときで印象が入れ替わる。日本画の鉱物や箔は光に強く左右されるため、菅は展示の照明にも心を配ってきた。設置する場所の光を選ぶ作品である。
菅かおるの作品