作品について
縦長の額のなかに、二枚の板が上下に分かれて収まる。上の板は黒地で、うつむいて咲く紅のクリスマスローズが三輪。下の板は金地で、水面から下に伸びた茎が透けて見える。二枚の境目が、そのまま水面の線になっている。 【作品について】 グラスに挿した花を、水の上と下とに分けて描いた一点である。上の板では花と葉が黒を背に立ち上がり、下の板では茎だけが金色の水のなかを降りていく。二枚の板を段違いに配することで、実際にわずかな奥行きの差が生まれ、水面を境に世界が切り替わる構造が物理的にも示される。 【モチーフについて】 菅かおるは水を一貫した主題としてきた作家であり、その原点は大学3年の折に金魚鉢を真上から眺めた体験にある。花瓶の水という最も身近な水を、上と下に分けて見せる本作は、その原体験を最も直接に引き受けた構成といえる。クリスマスローズは冬から早春に咲く花で、菅が『茶道雑誌』の表紙絵などで季節のモチーフを描き継いできた仕事にも連なる。 【素材・技法について】 雲肌麻紙に天然岩絵具。花の紅は混色を避けた絵具そのものの色で、花弁の重なりごとに濃淡を置いて厚みを出している。下の板の金地には水面の細かな波が金泥で引かれ、その下は暗く沈んで白い粒が散る。上の黒と下の金という明度の反転が、水面を挟んだ二つの世界を分けている。 【見どころ】 二枚の板の間にできる実際の段差に注目したい。絵のなかの水面と、額のなかの物理的な境目とが重なることで、絵と物との境が曖昧になる。
菅かおるの作品