作品について
【作品について】 「雨音」は、銅、漆、ステンレス、七宝、桐という複数の素材を組み合わせた金属造形作品です。タイトルが示す通り、雨をモチーフとしており、自然現象そのものを金属の中に留めようとする試みが見て取れます。生き物や無機物といった「形あるもの」を多く手がけてきた原田武の作品群の中にあって、目には見えるが手では掴めない「雨」という現象を対象に選んでいる点が印象的です。桐の台座が作品の周囲に静かな余白を生み、雨の降る空間の空気感までもが立ち上がるような構成となっています。 【素材・技法について】 本作では銅を主体としながら、ステンレス、漆、七宝という異なる性質の素材が一つの作品の中で共存しています。原田は「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と語っており、塗料を一切使わず金属の化学反応や七宝・漆といった伝統的な技法を組み合わせることで色彩を生み出しています。七宝はガラス質の釉薬を金属表面に焼き付ける技法であり、雨粒や水面に宿る透明感のある色彩表現に寄与していると考えられます。漆の深い艶は、雨に濡れた表面の質感と呼応し、ステンレスの硬質な光沢が作品に別の表情を加えています。台座に用いられた桐は、軽やかで柔らかな木目を持ち、金属の重量感との対比によって作品全体の「余白美」を支えています。 【見どころ】 原田武の作品は「日常において美しいと感じられるものだけではなく、それ以外のものの方が多数であり、その一つ一つにも目を向けていきたい」という眼差しから生まれています。雨音とは、普段の生活の中で意識せずにやり過ごしてしまう音の一つです。その聞こえるはずの音を、音の出ない金属という素材で形にすることで、鑑賞者の記憶の中にある雨の日の情景——匂い、湿度、あの音——を呼び覚ます装置として作品が機能しています。原田自身が「自分の作品が見た人が共感していただくほどで成立し完成する作品だと思っています」と述べている通り、この作品の前で何を思い出すかは、鑑賞者一人ひとりに委ねられています。
原田武の作品