作品について
【作品について】 「痕跡」は、道路の一部を切り取ったかのような銅の造形作品である。桐の台座の上に置かれた小さな路面には、ひび割れやすり減りといった時間の経過が刻まれており、実際のアスファルトやコンクリートが見せる表情を金属の中に再現している。漆による深みのある色調が路面特有のくすんだ質感を生み出し、手のひらに収まるほどのスケールでありながら、見慣れた足元の風景がそのまま凝縮されたような存在感を持つ。 【道路というモチーフについて】 コンクリートブロックや車止めといった無機物を金属造形として取り上げてきた原田武にとって、道路もまた「日常の再発見」というテーマを直接的に体現するモチーフである。原田は「日常において美しいと感じられるものだけではなく、それ以外のものの方が多数であり、その一つ一つにも目を向けていきたい」と語っており、通常アートの対象とはされない路面の風景にも視線を注ぐ。タイトルの「痕跡」が示すように、誰もが毎日踏みしめながら意識することのない地面に、無数の時間と人の往来が刻まれていることを、この作品は静かに示している。 【素材・技法について】 素材は銅・漆・桐の三つで構成されている。桐の台に銅の粉を漆で固めることで、道路表面の経年変化を立体として再現している。原田は「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と述べており、本作でも漆を併用することで、塗料では得られない深い色味と質感の奥行きを生んでいる。桐の台座は作品の「空気感」や「余白美」を演出する役割を担い、路面の断片がぽつんと置かれたような静けさを空間にもたらしている。 【見どころ】 高さ258mm、幅154mmという控えめなサイズの中に、日々踏みしめて通り過ぎるだけの地面が一つの「景色」として立ち上がっている点にご注目いただきたい。原田が「大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになれば」と語るように、足元に広がる世界を改めて見つめ直す契機となる一作である。
原田武の作品