原田武の作品一覧

原田武 Takeshi Harada

月下の痕跡

Traces Beneath the Moon

制作年2026
技法銅、真鍮、金箔、漆、杉
サイズH400 × W400 × D50 mm
作品タイプユニーク
PRICE (TAX INCL.) ¥374,000
お問い合わせ

作品について

【作品について】 「月下の痕跡」は、蝉をモチーフとした金属造形作品である。銅と真鍮によって形作られた蝉の姿が、金箔と漆の色彩をまとい、板の端を少しずつ重ねて並べる「鎧張(よろいばり)」の技法を用いた杉板の台座の上に静かに佇んでいる。H400×W400×D50mmという正方形に近い画面の中で、蝉とそれを取り巻く空間が構成され、月の光の下に残された生命の気配——「痕跡」という言葉が示すように、蝉がそこに在った、あるいは在るという時間の断片が金属の中に封じ込められている。 【蝉というモチーフについて】 蝉は、原田の制作の出発点にある「幼少期に夢中になって観察した身近にある小さな世界」を象徴する生き物のひとつである。原田自身が「大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになれば」と語るように、夏の記憶と結びつく蝉の存在は、日常の中で見過ごされがちな小さな生命への眼差しそのものといえる。タイトルに冠された「月下」という言葉が、昼間に鳴き声で存在を主張する蝉とは異なる、夜の静寂の中に残された痕跡という情景を想起させる。 【素材・技法について】 本作は銅と真鍮を主素材とし、彫金によって蝉の翅脈や体表の微細な凹凸を鏨で一本一本刻み込むという、複数の金工技法を組み合わせて制作されている。着色には塗料を一切使わず、金属素材そのものの色や化学変化による発色が用いられる。金箔と漆の併用は色彩の幅を広げるための手法であり、原田が「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と述べる制作姿勢が反映されている。 台座には、伝統的な建築の壁などに見られる、板を一定の間隔で重ね合わせて張る「鎧張(よろいばり)」を施した杉板が用いられている。この重なりが生み出す規則的な陰影と木目の素朴な風合いが、作品全体の「空気感」や「余白美」をより一層引き立て、支えている。 【見どころ】 蝉の薄い翅と金属という重厚な素材との間に生まれる質感の対比にご注目いただきたい。本来は儚く透き通る翅が、銅や真鍮という無機物で再現されることで、生命のかたちが永遠に固定されたかのような独特の時間感覚が生まれている。原田は「自分の作品が見た人が共感していただくほどで成立し完成する作品だと思っています」と語っており、月明かりの下の蝉に何を感じるか、鑑賞者一人一人の記憶と重ね合わせて見ることで作品は完成する。

原田武の作品

And More