作品について
【作品について】 「瑠璃尾」は、蜥蜴(トカゲ)をモチーフにした金属造形作品である。タイトルの「瑠璃尾」は、日本の野山で見かけるニホントカゲの幼体が持つ、鮮やかな瑠璃色の尾を想起させる。銀と銅で形作られた蜥蜴の体躯は、鱗の一枚一枚まで金属の表面に刻まれ、小さな生き物が持つ独特の緊張感——今にも走り出しそうな四肢の構えと、しなやかに伸びる尾の曲線——が桐の台座の上に静かに定着している。尾の部分には七宝が施され、金属とは異なる深みのある色彩が、タイトルの「瑠璃」を体現している。 【蜥蜴というモチーフについて】 蜥蜴は原田武が繰り返し取り上げてきたモチーフのひとつである。「用がある物」シリーズの「季 〜蒲公英と蜥蜴図三足香炉〜」にも蜥蜴が登場するように、幼少期に夢中になって観察した「身近にある小さな世界」の住人として、作品世界の中核をなす存在といえる。原田自身が語る「幼少期にはただただ夢中に観察し、身近にある小さい世界を覗き見していました」という言葉は、地面や塀の隙間に潜む蜥蜴の姿をまさに指し示しているようでもある。日常で見落としがちな小さな生命を、金属造形として手のひらの上に再び現前させる——この作品はそうした試みの結晶である。 【素材・技法について】 本作には銀、銅、金箔、七宝、漆、桐と、多様な素材が用いられている。蜥蜴の立体的な体躯を成形した上で、鱗や皮膚の質感は鏨(たがね)による彫金で一つひとつ刻まれている。原田は「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と語るが、本作ではさらに七宝と金箔を組み合わせることで、蜥蜴の尾が放つ瑠璃色の輝きと、体表の金属的な光沢との対比を生み出している。漆の使用が色調に深みを加え、桐の台座は作品全体の「空気感」や「余白美」を演出する役割を果たしている。 【見どころ】 蜥蜴の尾に宿る瑠璃色は、七宝ならではの透明感のある発色によるものである。金属の体躯が見せる鈍い光と、尾の鮮烈な色彩との落差にぜひ注目していただきたい。幼体のニホントカゲが持つあの目を引く青い尾を、金属と七宝の組み合わせで再現するという着想そのものが、日常の中に潜む色彩への鋭い観察眼を物語っている。
原田武の作品