作品について
【作品について】 「夢見鳥」は、蝶をモチーフとした金属造形作品である。銀、真鍮、ステンレスといった金属素材に加え、金箔と真鍮箔、さらに漆が用いられ、蝶の翅が持つ色彩の移ろいが金属の化学変化と箔の輝きによって表現されている。桐の台座の上に佇むその姿は、いまにも飛び立ちそうな一瞬を捉えたかのような緊張感を帯びている。 【「夢見鳥」という名について】 「夢見鳥」は蝶の古称・異名として知られる言葉であり、荘子の「胡蝶の夢」——夢の中で蝶になった荘子が、目覚めた後に自分が蝶の夢を見ていたのか、蝶が自分の夢を見ているのか分からなくなるという故事——に由来する。原田は「幼少期にはただただ夢中に観察し、身近にある小さい世界を覗き見していました」と語っており、子どもの頃に蝶を追いかけた記憶と、大人になった今その記憶を夢のように反芻する感覚が、この古語の持つ意味と重なり合う。 【素材・技法について】 原田の作品は、塗料を一切使わず、すべて金属素材そのものの色や化学変化によって発色させることを特徴とする。「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と本人が述べるとおり、本作でも銀や真鍮の地色、金箔・真鍮箔の光沢、漆の深い艶が蝶の翅の複雑な色調を担っている。鍛金によって金属板を叩き出して成形し、パーツを溶接や銀鑞付けで接合する中空構造は、蝶という軽やかな存在にふさわしい軽さを実現している。台座に用いられた桐は、作品の「空気感」や「余白美」を演出するために選ばれた自然素材である。 【見どころ】 蝶の翅の薄さと金属の重厚さ——本来相反するはずの二つの質感が、一つの作品の中で共存している点にぜひ注目いただきたい。金箔と真鍮箔が光の角度によって異なる表情を見せ、漆の深みがその輝きを引き締めている。「大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになれば」という原田の言葉のとおり、かつて夢中で蝶を見つめたあの時間の記憶が、金属の中に静かに息づいている。
原田武の作品