作品について
金色に輝く箔の上に、一羽の兎が静かに佇んでいるかのような気配を感じさせる作品です。「卯」——十二支のひとつであるこの文字をタイトルに冠した本作は、27.2×24.2cmという小ぶりな画面の中に、日本画の伝統的な素材と技法が凝縮されています。岩絵具と水干絵具による繊細な色彩の重なり、墨の線が生み出す静かな輪郭、そして箔と截金が画面に宿す荘厳な光——それらが一体となり、干支の動物が持つ素朴な愛らしさと、神聖な存在感とを同時に湛えています。 【素材・技法について】 本作では、日本画の基底となる岩絵具と水干絵具を膠で定着させる伝統的な手法が用いられています。岩絵具は天然鉱石を砕いた顔料であり、粒子の粗さによって色の深みや質感が変化します。水干絵具はより微細な粒子を持ち、滑らかで柔和な色面をつくり出します。これらを使い分けることで、画面には硬質な輝きと柔らかな温もりが共存しています。さらに注目すべきは截金の技法です。截金とは、金箔や銀箔を細い線状あるいは微細な形に切り出し、一片ずつ画面に貼り付けていく装飾技法で、もとは仏像や仏画の荘厳に用いられてきました。極めて繊細な手仕事を要するこの技法が、小さな画面に格別な密度と品格を与えています。箔の面が光を受けて表情を変えるため、鑑賞する角度や光の加減によって異なる姿を見せてくれるのも、本作の見どころのひとつです。
中村祐子の作品