作品について
【作品概要】 画面の上に幾重にも花が重なり合い、奥行きと密度をもって展開される日本画作品です。タイトル「花重ね」が示すとおり、花弁が折り重なる様子そのものが画面構成の核となっており、色彩の層が視線を奥へ奥へと誘います。53×40.9cmという空間のなかに、静かでありながら濃密な華やぎが凝縮されています。 【タイトルについて】 「花重ね」という言葉は、平安時代の衣の配色を指す「重ね」の美意識を想起させます。花そのものを描く行為と、色を幾層にも重ねていく日本画の制作工程とが、このタイトルのなかで自然に重なり合っています。 【素材・技法について】 支持体には雲肌麻紙が用いられています。雲のようにやわらかな繊維のむらを持つこの和紙は、岩絵具や水干絵具の発色を繊細に受け止めます。鉱物を砕いた岩絵具と、より粒子の細かい水干絵具とを併用することで、画面には粗と密、光沢と柔らかさの対比が生まれています。さらに墨による描線や陰影が構造を支え、膠がそれらすべてを紙の上に定着させています。 【隠れた要素・見どころ】 注目していただきたいのは、箔と截金の存在です。截金とは、金箔や銀箔を細い線状や小さな形に切り出し、一片ずつ画面に貼り付けていく技法で、仏教美術に由来する極めて精緻な手仕事です。花弁や背景のなかに截金の細線がどのように配されているか、ぜひ近づいてご覧ください。光の角度によって箔と截金が異なる輝きを返し、作品の表情が静かに変化していく様子を感じ取っていただけるはずです。
中村祐子の作品