作品について
【作品概要】 画面いっぱいに広がる苺の存在感が、静かにこちらへ語りかけてくるような一枚です。誰もが知る身近な果実でありながら、岩絵具と箔、截金によって描き出されたその姿は、日常の食卓とはまるで異なる荘厳さを帯びています。小さな画面の中に凝縮された密度の高い世界が、観る者の視線をそっと引き留めます。 【素材・技法について】 支持体には雲肌麻紙が用いられています。雲肌麻紙は楮の繊維が雲のように漉き込まれた和紙で、柔らかな表面の凹凸が岩絵具の粒子をしっかりと受け止め、独特の奥行きある発色を生み出します。岩絵具と水干絵具を併用することで、鉱物由来の粒子感と滑らかな色面が一枚の中に共存し、苺の表皮の質感——つぶつぶとした種の隆起やみずみずしい果肉の光沢——が繊細に再現されています。さらに箔と截金が施されている点も見逃せません。截金は、金箔や銀箔を細い線状あるいは微小な三角・菱形に切り出し、膠で一片一片貼り付けていく技法で、本来は仏像や仏画の装飾に用いられてきました。その截金が苺という日常的なモチーフに組み合わされることで、ささやかな果実がまるで供物や宝石のような気配をまとい始めます。膠を接着剤として用い、自然素材のみで画面を構築する日本画の伝統的な手法が、27.3×22cmという小品の中に余すところなく注がれた作品です。
中村祐子の作品