作品について
【作品概要】 画面いっぱいに広がる宝相華が、金箔の光を受けて静かに輝いています。宝相華は、蓮華や牡丹、芍薬など複数の花を融合させた想像上の花文様で、古来より仏教美術や正倉院宝物の装飾に用いられてきました。本作はそうした伝統的な意匠を、日本画の素材と截金(きりかね)の技法で丹念に描き上げた小品です。手のひらに収まるほどの画面でありながら、近づくほどに細部の密度と光の変化が感じられ、豊かな奥行きを宿しています。 【タイトルについて】 「金宝相華(きんほうそうげ)」というタイトルは、金色に彩られた宝相華そのものを端的に示しています。宝相華の「宝相」とは「尊い姿」を意味し、極楽浄土に咲く理想の花として、古代から工芸・建築・絵画に繰り返し用いられてきた格調高い文様です。 【素材・技法について】 基底材には雲肌麻紙を用い、岩絵具と水干絵具を膠で定着させながら色層を重ねる、伝統的な日本画の手法で制作されています。とりわけ注目すべきは截金の仕事です。截金とは、金箔を細い線状や小さな三角形・菱形に切り出し、一片ずつ膠で画面に貼り付けていく技法で、仏像や仏画の装飾に受け継がれてきた高度な手わざです。本作では、宝相華の輪郭や花弁の稜線に截金が施されており、光の角度によって繊細な金線が浮かび上がります。箔と岩絵具の質感の違い、墨による輪郭の引き締めが、小さな画面の中に凝縮された華やかさと静謐さの両立を生み出しています。
中村祐子の作品