原田武の作品一覧

原田武 Takeshi Harada

夏夜

Summer Night

制作年2025
技法銅、真鍮、銀、銀箔、漆、桐
サイズH260 × W150 × D90 mm
作品タイプユニーク
SOLD

作品について

銅と真鍮、銀が織りなす暗い金属の表面に、銀箔の淡い光が夏の夜気を漂わせる。鍛金と彫金を駆使して成形された虫や植物の細部は、硫化カリウムや火焔酸化による化学着色が深い闇の色調を与え、漆と桐の台座が静謐な余韻を添える。子供の頃に自然の中で目にした小さな生き物の記憶を手繰り寄せるように、夏の夜のひとときが金属の中に凝縮されている。 【作品について】 「夏夜」は、銅・真鍮・銀・銀箔・漆・桐を素材とし、夏の夜に潜む一場面を金属造形として立ち上げた作品である。高さ260mm、幅150mm、奥行90mmという手のひらに収まるほどの空間の中に、夏の夜気——湿度を帯びた暗がりの空気、虫の気配、月明かりに照らされた葉の輪郭——が凝縮されている。銀箔の淡い光沢が夜の微光を思わせ、漆の深い黒と銅の落ち着いた色調が闇の奥行きを生み出す。桐の台座が作品のまわりに静かな余白をつくり、夏の夜がもつ独特の間合いを空間ごと提示している。 【モチーフについて】 原田武の制作の根底にあるのは、「大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになれば」という願いである。夏の夜は、幼少期の記憶において特別な密度を持つ時間帯だろう。暗がりに目を凝らし、虫や小さな生きものの存在をたしかめた記憶。「夏夜」というタイトルは、具体的なモチーフの名ではなく時間と空気そのものを指しており、日常の中で見過ごされがちな夜の風景に目を向けさせる作品となっている。 【素材・技法について】 銅板を熱して金槌で叩き出す鍛金、松ヤニの上から鏨で微細な表情を刻む彫金を基本とし、パーツごとにTIG溶接や銀鑞付けで接合する。本作では銅と真鍮に加えて銀と銀箔が用いられており、金属それぞれが持つ固有の色味——銅の赤みを帯びた茶、真鍮の黄、銀の白い輝き——が夜の光と影の階調をつくり出す。塗料は一切使用せず、色はすべて金属素材そのものの色や化学変化による発色である。漆の深い黒が加わることで、金属の色彩だけでは到達しにくい闇の濃さが表現に加わっている。原田自身が「素材を限定することによって得られる表現を目指しています」と語るように、限られた素材の組み合わせの中で色彩と質感の幅を追求する姿勢が、この作品にも貫かれている。 【見どころ】 銀箔が放つかすかな光の揺らぎにご注目いただきたい。見る角度や照明の加減によって、夜の中にほのかに浮かぶ光の表情が変わる。金属でありながら、夏の夜気の湿り気や温度までもが伝わってくるような空気感——それこそが原田の金属造形が目指す世界であり、「自分の作品が見た人が共感していただくほどで成立し完成する作品」という言葉の意味を、この作品の前で体感していただけるはずである。

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