作品について
【作品について】 クラリネットを演奏する人物を、キュビズムの手法で描いた一作。黒いベレー帽に丸眼鏡をかけた奏者が、ライトブルーのクラリネットを両手で構え、マウスピースをくわえている。ピンクの肌、黒のジャケット、ライトブルーとグレーの面が鋭角的に分割・再構成され、人物の輪郭は複数の視点から同時に捉えられたかのように展開する。背景はクリーム色の余白が大きく残され、幾何学的に組み上げられた人物像がいっそう際立つ構成となっている。指先がキーを押さえる様子や、頬を膨らませて吹き込む口元まで、演奏の一瞬の動作が幾何学の中に凝縮されている。 【キュビズムとスポーツ・音楽の関係について】 岡﨑実央は「ピカソやブラックが発展させたキュビズム(様々な角度から見た対象の形を1つの画面に収める技法)」を自身の表現の核としている。本来プロレスを主たるモチーフとして、リングを360度囲む観客それぞれの視点を一画面に収めることから出発したこの手法が、本作ではクラリネット奏者という音楽のモチーフに応用されている。対象の特徴を抽出し、優先順位をつけて画面に収めるというプロセスを経て、奏者の姿勢・楽器の構造・演奏する手の動きが、一つの画面の中で同時に語られている。 【見どころ】 グレーの色面が画面のあちこちに配されていることにお気付きでしょうか。岡﨑は下塗りのグレーを意図的に残して描く手法を用いており、それは「白黒つけないグレーな部分の許容」という制作哲学と結びついている。また、文字やサインはフリーハンドで入れられており、右下の署名「mio 2025」にもその自由な筆致が表れている。黒・ピンク・ライトブルー・マスタードイエロー・ブラウンという限定された色数の中で、音楽の躍動感と奏者の佇まいが同居する一枚である。
岡﨑実央の作品