作品について
【作品について】 丸い木枠のキャンバスの中に、二人の選手が激しくぶつかり合う野球の場面がキュビズムで描かれている。クリーム色の背景に対して、クリムゾンレッド、ブラック、水色、ピンク、グレー、山吹色といった色面が幾何学的に組み合わされ、バッターとキャッチャー(あるいはピッチャーとバッター)の身体が複数の視点から同時に一画面へ収められている。帽子やミット、脚のフォームといった野球特有のシルエットが、分解・再構築された形で浮かび上がり、スポーツの動きの中にある一瞬の緊張感が伝わってくる。 【キュビズムと競技の関係について】 岡﨑実央はピカソやブラックが発展させたキュビズムを用いてスポーツを描く。「様々な角度から見た対象の形を1つの画面に収める技法」により、競技を取り囲む観客席それぞれの視点から見える美点を自由自在に表現できるという。さらに岡﨑は、描く競技に合わせてキャンバスの形状を変えるという独自のルールを持つ。本作が円形(トンド)であるのもその考えに基づいており、相撲では丸いキャンバスが土俵を連想させるように、野球においてもダイヤモンドやボールの円形が意識されている可能性がある。 【素材・技法について】 アクリル絵具をキャンバスに用い、文字や線は下書きやレタリングを行わずフリーハンドで描き込まれている。画面左下にはサインと「2024」の年記が筆跡そのままに残る。岡﨑はフリーハンドの文字について、「きっちりしたものを壊すこと」であり、写真や映像では伝えきれない観客の自由な声援やライブ感、混沌としたエネルギーを表現するためだと語っている。 【見どころ】 対象の特徴を抽出し優先順位をつけて画面に収めるという岡﨑の制作プロセスが、本作でも明確に表れている。選手の目や帽子のつば、グローブの丸い穴といった「野球らしさ」を担う要素が、色面の中から確かに読み取れる構成になっている。円形の画面の中で複数の身体が渦を巻くように絡み合い、静止画でありながらプレーの躍動が感じられる一作である。
岡﨑実央の作品