作品について
【作品について】 白と黒のみで構成された正方形のキャンバスに、プロレスラーの肉体と文字が渾然一体となって画面を埋め尽くしている。中央にはキュビズムの手法で分解・再構成されたレスラーの姿が描かれ、目、鼻、手、関節といったパーツが複数の角度から同時に捉えられている。その周囲を「ROMERO」「SPECIAL」「SNAP」といったフリーハンドの文字が斜めに、あるいは弧を描くように走り、画面全体に声援や実況が飛び交う会場の熱気を生み出している。 【ロメロ・スペシャルについて】 タイトルの「ROMERO SPECIAL」は、メキシコの伝説的レスラー、ロメロ選手の名を冠したプロレス技である。相手の両腕と両脚を同時に極め、身体を弓なりに反らせるこの技は、見た目の派手さと芸術的なフォルムから数あるプロレス技の中でも特に象徴的な存在として知られる。画面中央の人体が複雑に絡み合う構成は、技を掛ける側と受ける側の身体が一つの塊となる瞬間を、複数の視点から同時に捉えたものである。 【技法について】 岡﨑は「プロレスは観客が360度選手を囲んでいて、席によって見え方が異なり、それぞれの角度・視点に良さがあります。そこで、ピカソやブラックが発展させたキュビズムを用いてプロレスを描いています」と語る。正方形のキャンバスはプロレスのリングを模した形状であり、画面の中で文字は下書きやレタリングを一切行わずフリーハンドで描き込まれている。これは写真や映像では伝えきれない観客の自由な声援やスナップ音、カウントといったライブ感、混沌としたエネルギーを画面上に定着させるための手法である。 【見どころ】 画面に散りばめられた文字を追ってみてほしい。「SNAP」「ROMERO」「SPECIAL」といった技名や擬音が、レスラーの身体と同じ強度で画面を構成する要素となっている。文字と身体の境界が曖昧になる瞬間——それは、プロレスにおいて技の名前を叫ぶ実況や歓声が、技そのものと不可分であることを視覚化しているかのようである。
岡﨑実央の作品