作品について
【作品について】 画面全体を白・黒・青・赤・黄の強いコントラストが覆い、中央にはプロレスの技を繰り出すレスラーたちの身体が、キュビズムの手法によって複数の角度から同時に描き出されている。太い黒の輪郭線で区切られた肢体や顔のパーツが折り重なり、丸みを帯びた関節や指先が画面の中で絡み合う。その周囲には「LET'S GO!!」「NOOO!」「HELL YEAH」「MOM!」といった叫び声がフリーハンドの文字で散りばめられ、試合会場の熱狂が視覚的に再現されている。右下にはアーティストのサイン「mio 2023」が確認できる。 【タイトル「ENZUIGIRI」について】 「延髄斬り(えんずいぎり)」はプロレスにおける代表的な打撃技の一つで、相手の後頭部・延髄付近を蹴り抜く技である。画面中央のレスラーの脚部と、それを受ける側の頭部が複数の視点から同時に捉えられており、技が決まる一瞬の衝撃と動きの軌跡がひとつの画面に凝縮されている。 【キュビズムとフリーハンドの文字について】 プロレスはリングを中心に360度を観客が囲み、席によって見え方が異なる。岡﨑はピカソやブラックが発展させたキュビズム――様々な角度から見た対象の形を1つの画面に収める技法――を用いることで、「多くの角度から見た美点を自由自在に表現」している。正方形のキャンバス(S20号)はプロレスのリングに見立てた形状であり、競技の性質を支持体そのものに反映させている。また画面上の文字は下書きやレタリングを行わずフリーハンドで描き込まれている。これは写真や映像では伝えきれない観客の自由な声援、スナップ音やカウントといったライブ感、混沌としたエネルギーを表現するためである。 【見どころ】 白い面の奥にうっすらと残るグレーの下塗りにお気付きでしょうか。このグレーは、プロレスにおける「ガチか仕込みか」白黒つけない曖昧さ――あえてグレーなままで許容する心の余裕――を色彩に反映させたものである。青と赤がコーナーの対立を、黄色のテキストが歓声の突発性を示し、画面全体がまさに試合中のリングサイドの臨場感を構成している。
岡﨑実央の作品