作品について
【作品について】 赤いコスチュームの選手と青いコスチュームの選手が組み合い、一方が高く蹴り上げた脚が画面の中央を突き抜ける——プロレス技「ハイキック」の一瞬をとらえた作品である。赤・青・黄・ピンク・ベージュといった明快な色面が鋭角的に切り分けられ、二人のレスラーの身体は複数の視点から分解・再構成されている。太い黒のアウトラインがフリーハンドで引かれ、渦巻くような髪や紐のモチーフが画面にリズムと躍動感を与えている。淡いグレーの背景に対して、正方形のキャンバスいっぱいに展開される構図が、リング上の衝突のエネルギーをそのまま閉じ込めている。 【キュビズムとプロレスについて】 プロレスは「リングを中心に360度を観客が囲んでおり、席によって見え方が異なり、それぞれの席・視点に良さがある」と岡﨑は語る。そこでピカソやブラックが発展させたキュビズムを用いることで、「多くの角度から見た美点を自由自在に表現」することを目指している。本作でも蹴り上げる脚、構える腕、のけぞる上体が同時に複数の角度から描かれ、一枚の画面の中に観客席ごとに異なるハイキックの迫力が凝縮されている。 【素材・技法について】 正方形のキャンバス(S10号)は、プロレスのリングを正方形に見立てるという岡﨑の方法論に基づく選択である。アクリル絵具によるフラットな色面の塗り分けで構成され、下塗りのグレーが画面の随所にわずかに覗く。このグレーは、プロレスにおける「ガチか仕込みか」という白黒つけない「グレーな部分」を色彩に反映させたものである。また文字やラインは下書きやレタリングを行わずフリーハンドで描き込まれており、写真や映像では伝えきれないライブ感や混沌としたエネルギーの表現を担っている。 【見どころ】 二人のレスラーを区別する赤と青の色面が、中央の交錯する部分で互いに入り組み、どちらの身体の一部なのか判然としない領域が生まれている。この視覚的な混交こそ、「グレーなままで許容する心の余裕」というプロレスの魅力を画面上に実現した箇所といえる。
岡﨑実央の作品