作品について
【作品について】 グレーの濃淡だけで構成された画面の中に、複数の目、握りしめた拳、大きく開かれた手、鋭角的な三角形や有機的な曲線が折り重なるように配置されている。黒い輪郭線で縁取られた手や指の形態が画面左側から前方へ突き出すように描かれ、右側には黒い三角形の鋭い面と白い縦縞のパターンが対比を成す。ダークグレーからライトグレーまで幾段階もの灰色が用いられ、画面全体がモノトーンの緊張感に満ちている。 【STFという技について】 「STF」はプロレスの関節技の一つで、Stepover Toehold Facelock(ステップオーバー・トーホールド・フェイスロック)の略称である。相手の脚と顔面を同時に極める複合関節技であり、掛ける側と受ける側の身体が複雑に絡み合う。本作「STF #02」では、その身体の交錯――つかむ手、踏み越える脚、極められる顔――がキュビズムの手法によって一つの画面に解体・再構成されている。 【素材・技法について】 キャンバスにアクリルで描かれた本作は、S10号の正方形キャンバスを使用している。岡﨑はプロレスを描く際にリングの形に見立てて正方形のキャンバスを選ぶ。ピカソやブラックが発展させたキュビズムを用い、360度の観客席それぞれから見えるプロレスの姿を一画面に収める手法を取っている。全面を覆うグレーの色調は、プロレスにおける「ガチか仕込みか」白黒つけない「グレーな部分」を色彩に反映させたものである。下塗りのグレーを意図的に残しながら描くことで、その曖昧さを画面の地として定着させている。 【見どころ】 画面に散在する複数の「目」にお気付きだろうか。大小さまざまな同心円状の目が、三角形や曲面の隙間から鑑賞者を見つめ返している。これはリングを囲む観客一人ひとりの視線であり、同時に技を受ける側の苦悶の表情の断片でもある。見る角度や距離を変えるたびに、手が攻めているのか守っているのか、顔が叫んでいるのか耐えているのか、異なる解釈が立ち上がってくる。
岡﨑実央の作品