作品について
子どもの頃に夢中で眺めた夏の記憶を手がかりに、蝉の抜け殻という儚いモチーフを金属で立体化した箱物作品。真鍮、銅、錫、色箔を素材とし、鍛金・彫金による成形と硫化カリウムや火焔酸化による化学着色で、塗料を用いずに繊細な色調を生み出している。一見すると鑑賞のための造形でありながら、蓋を開けて初めて「用のある物」だと気づく仕掛けが施されており、日常と記憶、実用と観賞の境を静かに往還する一点である。 真鍮、銅、錫、色箔を用いて蝉の抜け殻を箱物として構成した作品。薄い金属板から鍛金・彫金によって成形された殻は、脚の関節や背の裂け目まで精緻に再現され、化学着色による褐色の階調が乾いた夏の空気を纏う。実用の器としての機能を外観に隠す「用の美」の系譜に位置し、幼少期の自然観察の記憶を金属に定着させるという制作思想が、蝉が去った後の静寂として凝縮されている。
原田武の作品