原田武 Takeshi Harada
中秋-月と兎図蓋物-
Mid-Autumn-Moon and Rabbit-
| 制作年 | 2019 |
|---|---|
| 技法 | 銀、真鍮、銅、金箔 |
| サイズ | H68 × W68 × D68 mm |
| 作品タイプ | ユニーク |
作品について
銀、真鍮、銅に金箔をあしらい、月と兎を題材に仕立てた蓋物。原田武は子供時代に自然を観察した記憶を「郷愁」として金属造形に落とし込む作家であり、本作もまた中秋という季節の情景を、鍛金・彫金の手仕事と硫化カリウムや火焔酸化による塗料を用いない着色で静かに立ち上げている。一辺6.8cmの小さな箱の中に用としての機能を潜ませ、外観からは実用品と気づかせない仕掛けが、手に取る者にささやかな発見の喜びをもたらす。 【作品について】 「中秋-月と兎図蓋物-」は、6.8cm四方の小さな蓋物(ふたもの)に、中秋の名月と兎という古典的な取り合わせを金属造形で表現した作品である。銀、真鍮、銅という異なる色味を持つ金属を組み合わせ、蓋の上面には金箔が用いられることで、月光を思わせる柔らかな黄金の輝きが生まれている。手のひらに収まるほどの小さな箱でありながら、蓋物という「用がある物」としての佇まいを備え、開けてみたくなるような親密さを湛えている。 【月と兎というモチーフについて】 中秋の名月に兎を重ねる意匠は、日本の工芸において古くから愛されてきた組み合わせである。この作品では、そうした伝統的な図像を現代の金工技術によって立体の蓋物へと落とし込んでいる。原田の制作の根底には「大人になって慌ただしい生活の中でついつい見落としてしまっていた感覚を思い出すきっかけになれば」という思いがあり、秋の夜空を見上げて月に兎の姿を探したような、誰もが持つ記憶の断片がこの小さな箱の中に封じ込められている。 【素材・技法について】 素材は銀、真鍮、銅、金箔。原田は「素材を限定することによって得られる表現を目指しています。全て金属で形を作るだけでなく色も金属の化学変化で発色させることによって表現しています」と語っており、塗料を一切使わず、金属そのものの地色や化学反応による色の違いで月の光、兎の姿、夜の空気感を描き分けている。鍛金により金属板を叩いて蓋物の形を成形し、彫金の技法で兎や月の図を刻む。金箔の使用は月の輝きを象徴的に担い、銀や銅の落ち着いた色調との対比が、秋の夜のしっとりとした空気を感じさせる。パーツの接合には銀鑞付けやTIG溶接が用いられ、中空構造によって見た目の重厚さに反して軽やかな手取りが実現されている。 【見どころ】 この作品は、原田が手がける「用がある物」シリーズの系譜に連なる蓋物である。実際に蓋を開閉できる実用的な構造を持ちながら、その表面には中秋の情景が凝縮されている。わずか6.8cmという寸法の中に月と兎の物語が収められていることに、金属という硬質な素材から季節の情緒を引き出す技術の奥深さが表れている。
原田武の作品